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本書は、さまざまな演奏者・指揮者によるCD(レコード)を徹底的に聴き比べます。対象となるのは厳選された四曲。聴き比べの目的は、名盤を選び出すことでも、演奏者・指揮者の優劣をつけることでもない。あえて、印象批評を前面に押し出し、同じ曲を徹底的に聴き続けることで、その曲のもっている「本質」をあぶり出すことを目指しています。異色のクラシック音楽論であり、音楽とは何かを問い直す。(講談社選書メチエ)
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Posted by ブクログ
たくさんの盤を聴き比べて楽しんでいる様なクラシック音楽マニア向けの本である。 取り上げられているのは、ヴィヴァルディの「四季」より「春」、スメタナの「モルダウ」、ベルリオーズの「幻想交響曲」、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の4曲だけである。割合は、「春」と「モルダウ」はそれぞれ約70ページ、「幻想...続きを読む交響曲」は約100ページ、「展覧会の絵」はおまけ程度で約30ページである。 許氏の本は何冊か読んでいるが、いつもと比べ、気取った文章で、言い回しや、表現がわかりづらいところも多く、読みづらかった。 あとがき相当するエピローグに、“私は本の形によって内容を決める。メチエと言う新しい枠組みを取るのなら、何か普段とは違った書き方をしたいと思った”と書いてあり、合点がいったが、それは著者の自己満足にとってはプラスにはなったであろうが、読者にとっては、マイナスに働いている。 文章表現について一例を挙げれば、比喩表現というのは、普通、一般的に広く知られているものに例えることで、相手が理解しやすくなるように行うものである。しかし、本書では一般に広く知られているとは言い難い、絵画や文学に例えているので、かえってわかりづらいという結果に陥っている。例えば、ジャリの独奏、パイヤール指揮による「春」について、以下の様に書いているが、わかりやすいとは言えないだろう。 “この演奏は私に、快楽の技術とは、結局自己統御の能力や方法でもあることを記したミシェル・フーコーの「性の歴史」を思い出させる” この様な書き方は一番読みたかった第1章のヴィヴァルディの「春」において特に多いのが残念である(後半の第3、4章では、気にならない程度)。 ついでに、「ことさら」という言葉を多用していることに違和感を感じたことも付け加えておきたい。 印象批評について。ヴィヴァルディの「四季」は、人気が高いため、多くの盤が出回っており、私も60種類以上の演奏を持っている。したがって、本書で取り上げられている盤のほとんどを聴いているが、著者の指摘は、なるほどと思えるものもあり、的外れだと思えるものもあり、という感じである。人の感性はそれぞれ違うので、印象批評を数多く目にすれば、その様に感じるのは当然とも言えなくもないが、本書によって目が開かれたということはないし、また、文章が面白いということもなかった。 褒めている盤はとても少なく、大体の盤に対して批判的である。ただ、多くの演奏について言及しているため、他人の意見を読む楽しさはあると言える。 まとめると、文章の読みづらさのせいで、理解しにくい所も少なくないが、一つの曲を何十種類も聴き比べた印象批評を集めた本はほとんどないので、それなりには楽しめるといったところである。
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