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世間から軽蔑され虫けらのように扱われた男は、自分を笑った世界を笑い返すため、自意識という「地下室」に潜る。世の中を怒り、憎み、攻撃し、そして後悔の念からもがき苦しむ、中年の元小官吏のモノローグ。終わりのない絶望と戦う人間の姿が、ここにある。後の5大長編へとつながる重要作品であり、著者の思想が反映された主人公の苦悩をリアルに描いた決定訳!
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Posted by ブクログ
暗く、ジメジメした穴ぐらから溢れ出る呪詛。 ポジティブを全て向こうに回し、己の駄目さ加減を棚に上げて捏ねくり回される自己肯定。 でもなんか途中から、なんか自分のこと言われてる‥と感じたり。 妙にハマった。
主人公に、まるで未来の自分が書いたような強い共感を感じた。肥大化したプライドで他者を見下し、同時に自己が矮小で卑劣な存在だと認識していながらも、それを変える為に前向きな、つまり現実と対峙することから逃げ続ける。高すぎる理想で、他人を嘲笑するが、それは自分自身にも適用される。 自己嫌悪、自意識過剰、...続きを読む低い肯定感と高い自尊心、全て共感できた。 主人公が語る事柄も、経験があることばかりだった。物語自体、何も解決せず、循環する陰鬱を記して終わる。救いはないし、読み終わった後に何が変わるでもないが、100数十年前に自分と似たような人間がいて、それを描いた小説が古典的名作として世界中で受け入れられている事を、なんだかとても温かく感じる。しかし一方で、他人がこの小説について語っていると傲慢にも不快感に似た感情を持ってしまう。お前になんかに理解できてたまるか!と。 失礼にも恥ずかしさを覚えるほど、完全に自己投影してしまった。キリスト教や当時のロシア情勢などを関連付けて語ることもできるようだけど、それ以上に現代社会における自己の確立の困難さという普遍的な悩みを扱っているのだから、まずは後者に注目するべきだと思う。 ただ主人公の、おそらくは理想とする水晶宮については納得できなかった。半理性的で非合理で、より感覚的な愛の世界。それを理想としている前提があるから、あのラストがより際立つのは理解しているけど、思想として納得できなかった。主人公自身、本当にそれを望んでいるとは思えない。ルサンチマンとストーリーの言い訳に聞こえた。文学としてはそれが正しいのだとは思うけど、私個人として好みじゃない。
「俺は病んでいる・・・ねじけた根性の男だ」で始まる非常に暗い小説。小説は2部に分かれ、Ⅰ部の「地下室」はモノローグで主人公のねじれた人生観がくどく語られ、Ⅱ部の「ぼた雪に寄せて」では主人公を「ひどく苦し」めている思い出が語られます。 Ⅰ部は難解で矛盾だらけ(ただ、注意深く読むと論理的一貫性があるのか...続きを読むもしれません)の一見戯言ですが、Ⅱ部で描かれるのは、一転、ほとんどコメディのようなねじれた男の3つの思い出。261ページの中編小説ですが、Ⅱ部に不思議な面白さがあり、一気読みでした。 主人公は40歳の元小役人。遠い親戚から6,000ルーブルの遺産が入ったため、退職して地下室に引き篭もっています。 「自尊心」が非常に高く、19世紀の知性が高度に発達したと自己評価している主人公は、何物にも、虫けらにさえもなりえなかったと考えています。主人公が批判するのは屈託なく率直で実際に行動を起こす「やり手タイプ」。そして、「やり手タイプ」も自然法則には勝てず、合理主義一点張りである点を猛烈に批判し「愚か者」と断定します。 自己については「冷ややかなおぞましい絶望と希望が相半ばした状態や、心痛のあまりやけを起こして我が身を地下室に40年間も生きながら埋葬してしまうことやこうした懸命に創り上げた、それでいてどこか疑わしい己の絶体絶命状態や、内面に流れ込んだまま満たされぬ願望のあらゆる毒素。激しく動揺したかと思うと永遠に揺るぎない決心をし、その一分後には再び後悔の念に苛まれるという、こうした熱病状態の中にこそ、さっき俺が言ったあの奇妙な快楽の核心があるのだ」と難解な分析を行います。 このあたりで挫折しそうになりましたが、訳者の安岡治子さんの解説は良きガイドになりました。特に7章以降に展開される「水晶宮」の理論の意味は解説がなければ読み取れなかったと思います。 16年前の苦痛の思い出を描くII部は、ほとんどコメディで3つのエピソードからなります。 ①将校との個人的な心理戦争 ②裕福な同窓生たちとの空回りの闘争 ③娼婦リーザに挑んだ戦い(?)と敗北 上記のエピソードは主人公のくどいほどの心理描写とともに描かれます。時間をおいてもう一度Ⅰ部を読むと、Ⅰ部の意味がある程度は理解できるような気もします。 以上、難解であると同時に面白い小説。ただ、ドストエフスキーの世界を未経験だと辛いかもしれません。また、大昔に読んだ『人間失格』を思い出し、また読んでみたくなりました。
娼婦を感動させたのに...
娼婦に気持ちが伝わったのは感動だ。 でも、主人公は分裂した感情を持つ。 単純でないのはつらいことだ。 だが、読者が アンビバレンツを直視するなら 何かが見えるかもしれない。 娼婦ではないが汚れた状況下の女性である 『ブギーポップは笑わない』の織機綺、 『青春の門・筑豊篇』の牧織江、 ...続きを読む また、同時期の作家トルストイの描く、 厳しい状況下にいた 『戦争と平和』のナターシャ たちには、理解ある彼が現れて、 筋が単純だが、この手記では 誰も救われなくてつらい。 でも、矛盾や苦悩の中で とにかく生きていると思う。 出世とかの土俵違いのところで 戦っている役人には 知識や思考を生かす場を与えてあげたい。
#タメになる #切ない #深い
肥大する自己意識。ちっぽけであると分かっていると同時に、どこか偉大であると信じている自己の存在意義。結局、極悪にも、善良にもなりきれずに世界を恨む。人間の普遍的な自己意識と世界との関わりの間で揺れ動く悩みは時代や場所が変わっても色褪せずに多くの人々の心に問いかけ、また、慰めてくれている。
自意識過剰と書いているけど、実際は人の悪意を正面から受け止め過ぎた悲しい主人公だと思いました。人間は脳髄で考えているのではなく手足からつま先に至るまで、それぞれ別々に考えている。頭も尻もない下等動物の連中が暑い寒いを正確に判断したり、喰い物の選り好みをするのはまだしも、人間の脳髄なんぞが寄っても附け...続きを読むない鋭敏な天気予報までもはっきり表しているのだから。主人公は言動だけでなく人間の態度や、ささいな行動からも人の悪意を感じ取ってしまうのではないだろうか。 この主人公の考え方は狂っているように見えるが、それは他の人より目立っただけだと思う。
新訳ではありますが、久々に手にしてみました。 凄いですな、これは。 主人公の倒錯の果ての自意識過剰・自己中心意識には憐れみを覚えると同時に読者(あるいは当方)自身の欺瞞を抉り出されているようで慄きを感じる。 また、リーザの設定などヨーロッパを知っていればより深くこの本を味わえるんだろうと思いますな。...続きを読む それにしても「本を読んでいるみたい」とは痛烈な知識人(あるいは良心ぶる市民)批判、とにかく身を隠すばかりです、当方は、はい。
この手記の主人公の惨めな姿に、自らを重ね合わせてしまうのは私だけであろうか。 この主人公は現代に特有の深刻な人間像の、1つのモデルになっていると思う。高度な知識人、教養人にありがちな、自意識の肥大化、その自意識と目の前の外界がうまく結合せず、自意識の中でもがき苦しむ人々。高等教育が普及した現代にこそ...続きを読む、書物や受け売りの知識で作り上げられた脳内が最上の世界と考える、このような人間が増殖しているのではないだろうか。 高度に知識、教養が発達したからこそ、外界での人間関係が上手くいかず、もがき苦しんでいるのであろうか。主人公はあくまで、周りの人間が無条件に自らを蔑んでいるような述懐をしていたが、その実、周りの人間にそうさせてしまうような、本人の陰険なたたずまい、雰囲気があったのだと推察することもできる。あくまで自分が世界の中心であり、自らの理性・意志をもってして不可能なことなどない、という考えのもと行動しているのであろう。これは、宗教がその権威を失墜させてしまった現代において特有のことであるとも考えられる。神の存在について思量をめぐらせる筆者の、後続の作品にもつながるものを感じる。神と人間との関係性を考える上で、重要な作品だと感じた。 印象的だったのは、説教する主人公に対してリーザが言い放った、「まるで本を読んでいるみたい」という一言。自らの意思で作り上げた言葉かと思っていたが、実はそうではなく、書物の受け売りの知識を並べたに過ぎなかった。意思の自由を獲得するための勉学であるはずが、そうはならなかった矛盾を孕んでいるように感じた。他者との関係性の中でしか、自らの意思の存在意義は保ち得ないのであろうか。
屈辱的な体験を飾らずリアルに描写したような話です。 主人公の葛藤が、恥辱の体験があまりにもリアルで、単なるフィクションとは思えません。 ドストエフスキーの人間観察の鋭さに圧倒されました。
罪と罰、カラマーゾフの兄弟の次に読んだドストエフスキー作品なのですが、今のところこれが一番好きかもしれません。 100年以上も前に書かれた小説だというのに、人間のどうしようもない傲慢で自分勝手で撃たれ弱い所が良く出ていて、ああ、あるあると共感できてしまう所がたくさんありました。 頑張ろうとすると空回...続きを読むりしてしまう。人間関係がうまくいかない。自己憐憫、自分を守る事に特化しすぎるとこうなってしまう。 だから妥協も必要だよ。という解釈を私はしました。
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