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ひとり都会に暮らす女たちの様々な心の風景。埋められない孤独と断絶感を抱きながら、都会の片隅にひとり暮らす女たち。結婚、仕事――揺れ動く心のかたちと生きかたを細緻な筆で描く秀作集。
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Posted by ブクログ
・「やっぱり振り込みにはしない。俺、結構楽しみなんです。大家さんに会うの」 雛子は黙って須山の顔を見ていた。彼は高い位置から雛子を見下ろしながら言った。 「楽しみっていうのは変かもしれないけど、俺、大家さんに会うと、姉の家を訪ねているような気分になるんです。なんていうのかなあ、怒らないでほしいんです...続きを読むが、勝手なことをして、糸が切れたような気分で生きている弟がいて、真面目に生きている姉がいるとします。俺、なんだか、ふっと思うんですよ。大家さんを見ていると、地面とつながっているなって。俺の姉もそうなんです。地面とつながっていて、ずっと田舎にいる。いつも俺に向かって言うんです。帰ってこんかい。帰ってこんかい。俺その声には参るけど、ほんとは懐かしい気分もするんです。もう帰る気がないからかもしれないけど、この家の玄関に立つと自然に、田舎の古い家にいる姉の顔が浮かんでくるんです」 ・「もっと出かけたらいいんですよ。住人のことなんてほっといて。今度行きましょうよ。映画に。あ、ライブでもいい。ジャズが好きですか。ジャズが好きじゃなかったらロックでもいい」 雛子は、行くとも行かぬともつかないあたりさわりのない言葉を返しながら、どこかで松井の声を聞いたような気分になる。 ”僕はいやだな。なぜ冒険しないんです?まだ若いじゃないですか。行くところなんていくらでもあるでしょう。誘われたら素直に行ったらいいんですよ。身構えていつも損をしている。かたつむりのように殻の中から首を出したりひっこめたりしないで、もっとヌッとしていたらいいんだ” ・同時にその土地を長い間見続けていると、ショールームのような人工的な空間は、こんな土地にこそふさわしいような気分になる。一方には草まみれの土地、一方には土地の値段がつり上がっていくビルの街があって、どちらも荒れているといえば荒れているのだ。そう思うと、ばらばらになった動物の死骸も、ばらばらになった照明器具のパーツもひどく似通ったものに思われて、雛子は家で動物の骨を磨くときも、ショールームで照明器具のパーツを磨くときも、荒野を飾る似通ったものを磨いているような気分になる。形態が違うだけで本当は全部どこかでつながっているのだと思ったりもする。
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