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代表作『知られぬ日本の面影』を新編集する待望の第2弾。「鎌倉・江ノ島詣で」「八重垣神社」「美保関にて」「二つの珍しい祭日」ほか、日本に対するハーンの想いと細緻な眼差しを感じる新訳十編。
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Posted by ブクログ
(上巻と同じ内容です) 2012.8記。 突然ですがやっぱり地元の夏祭り・盆踊りというのはよいものです。なぜか振付を熟知しているおばちゃん、よくわからない役割を与えられてねじり鉢巻きで周囲ににらみを利かせているおっさん・・・ 私が小学生(30年前、1980年前後)のころから変わらない風景だが、思...続きを読むえばこのおっさんおばちゃんも30年前はせいぜい30代。つまり1980年代にはそこそこ「盆踊りだせー」とか言っていた世代ではないのだろうか?2030年ごろには僕も地元の公園辺りで「自治会」のテントの下で東京音頭の音量を調節したりしているのだろうか?日頃は都心に電車で働きに出てしまう僕だが、そうやって将来どこであれ地域の行事の継承役の一角を担えるならそれは嬉しいことだ・・・こういう廃れそうで廃れない日本の季節の風物詩を大事にしたいと思う今日この頃。 さて、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が描写した(おそらくは19世紀末の)出雲における盆踊りの様子は、日本人が読んでもめまいがするほどに美しい。 以下、少し長いが引用です。 「かつてのお寺であった本堂の陰から、踊り子たちが列をなして月の光を浴びながら出てきて、ぴたりと立ち止まった。(中略)・・・すると、太鼓がもうひとつ、ドンと鳴ったのを合図に、さあ、いよいよ盆踊りの始まりである。それは、筆舌に尽くしがたい、想像を絶した、何か夢幻の世界にいるような踊りであった・・・(中略)こうして、いつも無数の白い手が、何か呪文でも紡ぎだしているかのように、掌を上へ下へと向けながら、輪の外側と内側に交互にしなやかに波打っているのである。それに合わせて、妖精の羽根のような袖が、同時にほのかに空中に浮き上がり、本物の翼のような影を落としている。(中略)・・・空を巡る月の下、踊りの輪の真ん中に立っている私は、魔法の輪の中にいるような錯覚を覚えていた。まさにこれは、魔法としかいいようがない。私は、魔法にかけられているのである。幽霊のような手の振り、リズミカルな足の動き、なかでも、美しい袖の軽やかなはためきに、私はすっかり魅了されてしまっていた。幻影のように、音も立たない、なめらかな袖の揺れは、あたかも熱帯地方の大きなコウモリが飛んでいるかのようである。いや、夢だとしても、こんな夢はこれまで見たことがない。」(ラフカディオ・ハーン「日本の面影」(池田雅之訳))
前作『新編 日本の面影』に収録されなかった10編のエッセイと、奥様である小泉節子氏が八雲との思い出を語る『思い出の記』を収録。 八雲のエッセイはもちろん、『思い出の記』を是非読みたかったので手頃な文庫に纏まっているのはありがたい。 俗に言うヘルン語でやり取りする夫妻の会話は、文章だけでも微笑ましく...続きを読む、二人の絆を感じる。
・気持ちの準備ができている時は、ゆったりと入ってくる。 ・紀行文はそんな時にいい。 ・雑司ヶ谷を訪れてもいい。
目次 ・弘法大師の書 ・鎌倉・江ノ島詣で ・盆市 ・美保関にて ・日御碕(ひのみさき)にて ・八重垣神社 ・狐 ・二つの珍しい祭日 ・伯耆(ほうき)から隠岐(おき)へ ・幽霊とお化け ・思い出の記…小泉節子 種本である『知られぬ日本の面影』は、日本のことを知らぬ外国向けに書かれたものなので、一つ一...続きを読むつのものや行為の文化的・宗教的背景などを丁寧に説明しているのだけれど、先に出た『日本の面影』の収録から漏れたこちらの作品は、説明の丁寧さよりも、子どものような素直な好奇心で持って眺めているハーンの眼差しが強く感じられた。 日本文化の中のワビサビを尊び、枯れたものの中にもののあはれを感じているはずのハーンは「幽霊とお化け」の中でこう書いている。 ”しかし、もしも私が聖者になれたとしても、野にわび住まいしないよう用心するだろう。日本の化けものを見たことがあるが、とても好きにはなれないからである。” こう書いた後に、前の晩に氏神様の集まりに集まってきて化けものを見に行った話を続ける。 要は神社の祭りに出ている見世物小屋をめぐったのである。 もちろん見世物小屋と承知して入っていても、いちいち悲鳴を上げたり跳び退ったり、案内の日本人もハーンもなかなか忙しい。 ”「さっき見た化けもののことだけど、みんな本当に信じているのかね」 「少なくとも、都会の人はもう信じちゃいません。でも田舎の人は違います。私も、仏様だって、神様だって信じてます。殺された人間が仇をうったり、汚名をそそぐために生き返って来るなどという話を信じている人が、まだたくさんいるかもしれません。でも、昔信じていたことを今もそっくりそのまま、信じているとは限りませんよ、先生」” 神様や仏さまを信じることと、迷信を信じることは違うということ。 けれどもその迷信の由来となった出来事を否定するのではなく、当事者たちの気持を受け入れること。 多分日本人はずっとそうやって、先祖をまつったり、神話と自分たちを繋げて生きてきたのだろう。 ハーンが日本人に感じてくれる親愛の気持は、こういう部分なんだろうと思う。 違いを認めない偏狭なキリスト教を嫌い、たいていのものを受け入れて呑み込む日本の文化を愛したハーン。 ある華族のご隠居様で、万事昔風を好み西洋風の大嫌いな人の話を聞いて「そのような人、私の一番の友達」と喜ぶハーン。 「私西洋くさくないです」と会いに行きたがるハーンに奥さんが「あなた西洋くさくないでしょう。しかし、あなたの鼻」と言う。 「あ、どうしよう、私のこの鼻。しかしよく思うて下さい。私この小泉八雲、日本人よりも本当の日本を愛するです」 日本人が捨てようとしていた日本らしさの中に、多くの光を当ててくれてありがとう、 小泉節子が書いた「思い出の記」の中の夫婦の会話がことのほか良い。 「ママさん私この寺にすわる、むずかしいでしょうか」 「あなた、坊さんでないですから、むずかしいですね」 「私坊さん、なんぼ、仕合せですね。坊さんになるさえもよきです」 「あなた、坊さんになる、面白い坊さんでしょう。眼の大きい、鼻の高い、よい坊さんです」 「同じ時、あなた比丘尼となりましょう。一雄小さい坊主です。如何に可愛いでしょう。毎日経を読むと墓を弔いするで、よろこぶの生きるです」 「あなた、ほかの世、坊さんと生れて下さい」 「ああ、私願うです」 何故奥さんまでカタコトなのか。(笑) けれど、なるべく同じ言語で気持ちを伝えあおうとする二人の間にある距離感、空気感、思いやりが、とてもとてもよきです。
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日本の面影
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ラフカディオ・ハーン
池田雅之
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