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ハルオと立人と私。恋人でもなく家族でもない三人が始めた共同生活。この生活の唯一の禁止事項は「同居人同士の不純異性行為」――本当の家族が壊れてしまった私にとって、ここでの生活は奇妙に温かくて幸せなものだった。いつまでも、この居心地いい空間に浸っていたかったのに……。表題作「幸福な遊戯」(「海燕」新人文学賞受賞作)の他、「無愁天使」「銭湯」の2編を収録。今もっとも注目を集める作家、角田光代の原点がここにある。記念碑的デビュー作!
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Posted by ブクログ
初めての角田光代さん。幸福の遊戯はデビュー作らしくだいぶ昔の作品だったが、現代と変わらない女性の悩みというかモヤモヤが描かれていて、とても好みの作品だった。
あなたは、『男が二人に女が一人、三人の』共同生活が上手くいくと思いますか? “一つの住居に複数人が共同で暮らす賃貸物件”を指すシェアハウスという言葉。そんなシェアハウスは、2014年には300棟ほどだったのが2019年には4,800棟にまで増えているといいますからその人気の高まりに驚きます。割り算...続きを読むによって家賃が安くなり、入居者同士の交流によって仲間ができるなどそのメリットに注目が寄せられてもいます。 ここ三年ほどの”コロナ禍”によって人と人の関わり合いは随分と変わったように思います。”在宅勤務”によって、他人と全く接することなく毎日が過ぎていく…、そんな中には人恋しい感情も生まれたと思います。もちろんそれは人それぞれだと思います。しかし、人との関わりを何よりも重視される方には日々他人と接することが基本となるシェアハウスは理想的な生活の場なのかもしれません。 しかし、シェアハウスを好まれる方もそれはあくまで”同性”を意図したものではないでしょうか?もちろん、”男ともだち”という言葉もあるように、”異性”と友達関係を築いていくことも出来なくはないのかもしれませんが、24時間一つ屋根の下に暮らすことを前提とした時、果たしてそこに”異性”との『共同生活』というものは成立するものでしょうか? さてここに、『男が二人に女が一人』という『共同生活』を送る女性を描いた作品があります。『同居人同士の不純異性行為禁止』が通達された三人の暮らしが描かれるこの作品。そんな作品の他に一編の中編と二編の短編が収録されたこの作品。そしてそれは、女性の内面を具に描いて三十余年という角田光代さんのデビュー作です。 『三人での共同生活を始める際に、同居人同士の不純異性行為禁止と、それだけを決めた』と『大学時代四年間クラスメイトだった』立人が提案するのを聞くのは主人公のサトコ。『誰を連れ込んでも毎晩違う女を連れ込んでもいいが、同居人だけはだめだ』と『立人がそう提案するのには、訳があ』りました。『男が二人に女が一人、三人の共同出資で成り立っている』、『色恋沙汰を交えると、誰かが出て行くことになりかねない』というその理由。『引っ越してきた第一日目に、そんな演説をした』立人でしたが、そんな『禁止事項を』サトコとハルオが破ります。『共同生活を始めてまだ三か月目』、『親戚の葬式で田舎へ帰っ』て『立人の高校時代の同級生であるハルオ』と二人きりになったサトコ。『立人という仲介役が存在しない』中に、居心地の悪さを感じる二人。そして、『気まずさを追い払うために私たちは酒を飲』み、『気付いたら寝ていた』という二人。そんな『夜のセックスは恋愛の蓋を開けるのでなく』、『この家をずっと住みやすくしてくれるだろう』とサトコは考えます。『明くる日、昼過ぎに授業を終えてから姉の家に行った』サトコは、『私引っ越したの』、『三人で木造の一軒家を借りたの。庭が付いてて十万だよ、安いほうでしょ。三人だから一人三万三千円』と現在の暮らしを姉に説明します。そして、そんな『姉と母親の乱闘騒ぎ』を思い出すサトコ。『一回りも年の違う人』という『会社の人と』付き合い出した姉でしたが、そんな『男に母親が手を出した』という展開。『大声で罵りあ』い、やがて『家に寄りつかなくなった』母親。一方の姉は『二人で争った男ではない』男と結婚しました。『あたしは幸せになれればいいの』と言う姉。そんな姉に『一緒に暮している人たちは何をしてるの』と訊かれ、『一人は大学院に行って勉強してて、一人はぷらぷらとしてる』と返すサトコ。『もしかして男の子?』と訊く姉に、サトコは『セックス禁止令』について説明します。それに、『笑い転げ、それは安心ね』と言う姉。そんな姉は『人が持って生まれた運命の糸って、生まれた時からぐちゃぐちゃによじれている』、『成長していくうちに… 丁寧にだまをほぐして、自分の糸を真直ぐ真直ぐ伸ばしていくの』と『運命の糸』の話をします。『それは違う。もし運命の糸なんてものがあるとしたら、生まれた時は産声くらい真直ぐな糸なのだ』と心の中で思うサトコ。そして、『禁止令を破ったことで私は心から安心できる場所を獲得した』というサトコ、『まるで生まれる前からこうして三人で暮してきたような錯覚に』陥るサトコが、立人、ハルオと『共同生活』を営む日々が描かれていきます…という表題作でもある最初の短編〈幸福な遊戯〉。主人公・サトコの寄る術のない思いに苛まれる角田さんらしい好編でした。 “ハルオと立人と私。恋人でもなく家族でもない三人が始めた共同生活。この生活の唯一の禁止事項は「同居人同士の不純異性行為」ー 本当の家族が壊れてしまった私にとって、ここでの生活は奇妙に温かくて幸せなものだった。いつまでも、この居心地いい空間に浸っていたかったのに…”と物語背景が丁寧に記された内容紹介に思わず興味がそそられる(笑)この作品。代表作「八日目の蝉」、直木賞受賞作「対岸の彼女」、そして「源氏物語」の現代語訳まで刊行されるなど、今やこの国の現代作家の大御所の一人とも言える角田光代さんのデビュー作です。2019年12月から読書&レビューの日々を送り始めた私は、「八日目の蝉」で角田光代さんの作品と初めて出会いました。映画の方もすぐに見るなど、そこに描写されていく人間がさまざまに見せる横顔の絶妙な描写力にすっかり虜になりました。現在までに三十冊を読み終えた私ですが、デビュー作はすっかり後回しになっていました。 そんなこの作品は中編一編と短編二編の三編から構成されています。デビュー作〈幸福な遊戯〉は、第9回「海燕」新人文学賞という賞を受賞もされているようですが、作品間に関連はなくそれぞれが独立した作品となっています。では、そんな三つの物語をご紹介しましょう。 ・〈幸福な遊戯〉: 『三人で木造の一軒家を借りた』という主人公のサトコ。『一人三万三千円』で『十万円』の家に暮らし始めたサトコですが、『男が二人に女が一人』という『三人の共同出資』で成り立つ関係性にはルールがありました。『同居人同士の不純異性行為禁止』というそのルール。しかし、『大学時代四年間クラスメイトだった』立人に比べて、彼の『高校時代の同級生』というハルオとは『なかなか心からうちとけられな』い日々を過ごしていたサトコですが、立人が『親戚の葬式』で不在となった夜に『酒を飲』み、『気付いたら寝ていた』と関係を持ちます。しかし、『禁止令を破ったことで』『心から安心できる場所を獲得した』と思うサトコ…。 ・〈無愁天使〉: 『デュポンのカラフルなペン』、『絹のランジェリー』、そして『真珠をはめ込んだ時計』…と『目の前にあふれ返る品物を前に『思考という思考がどこかへ押し遣られ』るのを感じるのは主人公の『私』。『こんな日々は、もう一年以上続いている』という『私』は、母が亡くなった日のことを思い出します。『父も妹も、一体どうして帰ってこないのだろう』と思う『私』は『ゼロが二桁少なく』なった通帳を見る中に、あるマンションの一室へ訪れます。『一時間で二万五千円』という説明を聞いていると電話が鳴ります。『行ってみる?今日はパスなら他の子呼ぶけど』と訊かれ『じゃ、行きます』と答えた『私』は指定されたホテルへ赴きます…。 ・〈銭湯〉: 新しく出来た銭湯・桔梗湯へと訪れたのは主人公の八重子。そんな八重子はカランの前に座り、右隣に『小さな老婆がひょこんと坐って』いるのを見て『しまった』と後悔します。『銭湯でよく会うこの老婆』は『しきりと喋り続け』ます。そんな時『後ろで微かな笑い声がする』のを聞き、振り返ると『「捕まったわね」という哀れむような一瞥を』主婦に投げかけられます。『孫がね…』、『今の若い人ってさ…』、そして『あの人には困ったもんよ…』と続く老婆の話。結局、『八時半に風呂に入ったのに』、『脱衣所に戻ったのは十時近かった』という展開。そんな八重子は家に帰り『あなたも来月で二十三になりますね…』という母からの手紙を開きます…。 以上三編は〈無愁天使〉が中編で他の二編が短編という構成で、中編が短編二編と同じくらいの分量の作品になっています。しかし、不思議とその分量の違いは感じず、それぞれに異なるシチュエーションの物語が胸に残ります。そんな三つの作品に共通するのは、何かしら問題があると思われる状況の中に立ち止まったまま動けないでいる女性たちの存在です。そんな三人はそれぞれ、二十三歳の大学五年生、二十歳の短大生、そして二十三歳の大卒一年目・無職という女性たちです。まさしく、この作品刊行時ほぼ同年代の角田さんが描く等身大の女性たちの姿と言えます。そんな彼女たちはそれぞれの人生の中に『幸せ』とそれが将来へと続くものではない『不安』の思いのせめぎ合いの中に生きています。 〈幸福な遊戯〉のサトコは『男が二人に女が一人』という一つ屋根の下での生活の中に安寧の日々を送っています。『この家に姿のない形を見た』というサトコは、不思議な安定感の中に『心穏やかに、夢を見ているように』今を過ごしています。『家族でもない他人同士の暮らしの中』に生きる三人の中で、男二人は冷静に未来を見ていく姿が描かれていく一方で、サトコは今の幸せのみを見続けています。それは、ある意味痛々しいものも感じますが、本人はあくまで『幸せ』な今がいつまでも続いて欲しいという思いの中にいます。〈無愁天使〉の主人公・『私』は、買い物三昧に明け暮れ、モノに埋もれた暮らしの中に生きています。『私の目に入る品物は、私の手に取られることを確信してそこにある』という感覚の中に生きる『私』の生活ですが、一方でそれは通帳の残高に焦る思いと背中合わせにありました。不安定な『幸せ』の中に生きる『私』。そして、『銭湯』の湯につかり束の間の『幸せ』を思う〈銭湯〉の八重子。『私は就職しない』、『ずっと芝居を続けて行』くと誓った先の今を生きる八重子は、『自分の幸福というものについて、考え始めてもいいと思います』という母親からの手紙を読み『幸福、幸福、幸福…』とそのひと言に戸惑いを見せます。大学、短大を卒業する時期は、その先に続く長い人生に向かって大切な選択を求められる時代でもあると思います。とても繊細な思いの中に揺れ動く彼女たちの思い。そして、そんな現実から目を逸らすかのように今の何かしらの『幸せ』に心を向けていく彼女たち。この作品では、同年代だからこそ感じることのできた角田さんの想いが、初めて執筆された小説の中に投影されていたのかもしれません。 『何がどこで間違ってしまったのだろう。どこで糸はねじれてしまったのだろう』。 1991年に角田さんのデビュー作として刊行されたこの作品。そこには、デビュー作からすでに角田さんらしい主人公女性たちの不安定な心持ちが描かれていました。30年も前の作品にもかかわらず時代をあまり感じさせないことに驚くこの作品。女性ならではの繊細な心の機微の描写に魅了されるこの作品。 『幸福』とはなんだろう、改めて考えるきっかけを与えてくれる、そんな作品でした。
デビュー作とは知らずに読んだけど、角田光代の世界によく登場する一線ずれた女像はここからだったのかと思う。 決して気持ちの良い物語ではないけれど、女は少なからずこういう湿った影のような部分を持ってるから、共感とはいかないまでもどこか似た思いを読み取ってしまうのかなと思う。 短編3つ、どれも自分が作られ...続きを読むた家を根源に、自分自身に影や染みのようなものをもつ女達。彼女達はそれぞれの形で幸福を実現しようとしてるけど世の中の常識とは合わなかったりする。でも彼女達が求めてるのはただ心の安定なのかも。
角田光代のデビュー作。 けっこう狂った感じ。 もはや共感はできないほどの おかしさだけど、 いつも描こうとしているだろう 普遍的なテーマが原点を感じさせる作品。
2014.3.15ー15 門田光代の原点はここにあるのかと思わせる、著者23歳の頃の主人公がほぼ同年代の作品。家族とは?自分とは?じんわりと考えさせられる良質な著書でした。
角田光代のデビュー作。 あとがきで永江朗も書いてるが、本当書くことがぶれないなぁ。 そして、いまも昔も好き。
これがデビュー作なのかと、あとがきで知る。彼女の小説を読むのは四冊目かな? 角田光代のエッセイはすごくすごくすごーーーく好きなのだけれど、小説は苦手だった。暗いし、わぁ!ってならないし。 でも、大学二年の今、読んでみたら、なんかもうこれはすごいわと思ってしまった。無自覚のどろどろが文字になっている。...続きを読む人気ってことは、みんな同じようなことを考えているのかという安心感と、どの人もこんな人生なのかっていう未来への絶望。 ぐだぐだしてるシーンの描写が好き。
角田光代さんのデビュー作と、全く意識せずに読みました。なのに、書かれているテーマや表現、また作品に現れている社会に対する視点・見通しが、一貫していると感じた。ほんとに良い作家さんであると思う。
いまを生きる人々の心情をデフォルメして描き出している。主人公らの極端な言動は、行き過ぎているように思う。常軌を逸しているように思う。でも、そこまでひどくはない程度なら、自分自身にもありそうだから怖い。 特に2作目の「無愁天使」。主人公が物を買いまくる。そして、一度も使わないまま、部屋のどこかに放置さ...続きを読むれる。こういうのって、確かにある。角田光代に人間の性癖を書かせるとちょっと怖い。
家族とか、生きていく中で、関わる人たちの存在を考えました。でも、1人では生きていけないことも再確認。
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