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〈資本主義〉のシステムやその根底にある〈貨幣〉の逆説とはなにか。その怪物めいた謎をめぐって、シェイクスピアの喜劇を舞台に、登場人物の演ずる役廻りを読み解く表題作「ヴェニスの商人の資本論」。そのほか、「パンダの親指と経済人類学」など明晰な論理と軽妙な洒脱さで展開する気鋭の経済学者による貨幣や言葉の逆説についての諸考察。
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Posted by ブクログ
インテリ萌。お金(資本主義制度)にどうしてこんなに振り回されなくてはならんのかしら?という疑問のもとに、面白そうだったので初岩井克人。資本主義からは解放されないにせよ、教養ある洗練された文章が素敵だった。貨幣、ビジネスの歴史についても触れているので、経済史を知らない人間には勉強になった。
これもまた水野先生からの課題図書。 モーリス・ゴドリエさんの「経済人類学序説」でマルクスの貨幣論を勉強した後に持ってこられた。まったく、いつもタイミングがすごすぎる。 表題作の「ヴェニスの商人の資本論」はとても面白い謎解きになっていて、貨幣の資本主義における働きが何となく掴めるようなお話しである。...続きを読むおすすめ! 中盤は経済学のお話しがいろいろ続いて、なんだか一処にとどまり続ける息苦しさと行き詰まりを感じたのだけれども、最後まで読んで印象はひっくり返った。 最後の「十冊の本」という短いエッセイは、知と知識の違いを皮肉的に説明してあるようなお話しで、「本読んでるぞ~!」と思い上がっていた私の顔面にパンチを喰らわせてくれた。 日々毎日、その時その時に応じて「事」に当って応対していくというやり方と、実際にそのことに当たる前に事前に少しでも準備をしておいて、いざ!その「事」に対応するというやり方がある。万全の準備をしようとするとフレーム問題で全く身動きができなくなるのだけれども、全然準備をしていなければ、それはそれイチかバチかでとても危うい感じがする。しかし、どの程度の準備が適切かと考えてみてもちょっと即座には答えが出ない。案外なにも準備すること無くその場で対応したほうがうまく行ったりするのかも知れない。 ------------------------------------- 「知識」などという冗長な言葉はもうすっか死語になっている。今ではその代わりに、短く―「知」―と言わなければならないのである。仏教において絶対で不滅な人生の根源のことを意味している「識」という言葉の重みを取り払われた「知」は、軽妙で、微細で、多元的で、非中心的で、ズレに満ち、そしてなによりも胡散臭いものとして規定される様になったのである。ひとは、かつてのようにみずからの中に知識を貯えて「知識人」になるのではなく、この「識」を失った「知」なるものに対して、その冒険的な狩人になったり、それを祝祭的に蕩尽したり、そのねじれの構造を批評したり、それを玉手箱のように脱構築したり、それと軽やかに戯れたりしなければならなくなってしまったようだ。 ------------------------------------- と岩井さんは皮肉を言われる。 あくまで資本主義経済社会に踏みとどまり専門分野である経済に関して、なんとかして「知」を「識」にまで織り上げようと呻吟されている苦悶、苦闘が感じられる。なんか…学問って闘争というか死闘なんだなぁ~と感じてしまった。 それに比べて、自分のなんとお気楽なことか… しかし、読むのは止めないつもり。読むのをやめたらたちまち暗黒の闇に舞い戻り世界を呪い、自分を呪うことになってしまいそうだからである。ただただ時間を消費して、他人に迷惑をかけないために本を読むというのが、手持ちの脳のメモリーが小さくて、CPUのクロック数も低いが故に「知」を「識」に編みあげるなどとても出来ない相談である私の読書体験なんだなぁ… 水野先生が感想を聞いてくださるのが唯一の救いだな。
7/31 シェイクスピアがユダヤ人嫌いだったんじゃなくて、キリスト教には他者としてのユダヤ教が必要だった。 『ヴェニスの商人』を、貨幣の交換原則などから論じた(?)名著。
一般向けに岩井先生が書いたエッセイ集だけどどれもきわめて秀逸。目から鱗が落ちるとはこういうことを言うのだろう。経済に本源的に内在する不均衡、それを逆説的に安定させるヒト(労働市場)と利益動機で行動しない中央銀行の存在。彼のテーマである資本主義の本質である技術革新(シュムペーター動学)と昨今の信認の問...続きを読む題への萌芽を見ることができる。
本書はエッセイ、書評本といった印象もあるが、『ヴェニスの商人』に対してこのような資本論的解読をしたのは、岩井克人が初なのか。また、その点において、同氏の奥さんである水村美苗の影響は受けていたのか。また、こうした寓話的な解読における、経済学的意義というのはどのような点にあったのか、という点を気にしなが...続きを読むら読んだ。 文学研究の世界では『ヴェニスの商品』に登場するシャイロックの「利子」「金貸し」という動機が、キリスト教的倫理と貨幣経済の衝突を象徴しているというような解釈は古くからあり、引用されてもきた。特に、マルクス自身がシェイクスピアをよく引用している。しかし、遺産を引き継いだ娘であるポーシャを「死蔵された貨幣」と見立て、流通と使用価値の問題に接続したような解釈は、岩井克人が先駆的だったのではないだろうか。 つまり、文学解釈を超えて、経済理論における貨幣の流通・蓄蔵・象徴性を可視化するための「寓話的装置」として『ヴェニスの商人』を用いた点が独創的だった。で、その文学との融合において、小説家であり同氏の妻である水村美苗の影響があったのではないかと感じたのだ。直接的な証拠もその点における言及も見当たらないが。 で、結局のところ、寓話的な解読の経済学的意義とは何なのか。ポーシャが、貨幣っぽいね、と物語への‟当てはめ“をした所で、学術的意義は見出せない。この点に関しては、少し調べながら考えてみた。岩井は、経済学における主要概念(貨幣、利潤、流通など)を、物語に仮託することで、ポーシャ=貨幣という寓話は、貨幣の「使われない時間」こそが、実はその価値構造の根底にあることを示す。また、岩井は貨幣を「実体」ではなく「記号」として捉え「貨幣とは、〈差異の連鎖〉でしかない。」とする。 別の章で「キャベツ人形」というものが出てきて、日本でも80年代に流行ったらしい「赤ちゃん人形」だ。私は知る由もないが、「赤ちゃん人形」は何かしら人間社会に対し暗喩的に度々ブームを起こすのだ。で、こうしたポーシャやキャベツ人形が「意味の鎖」によって他者との差異を生む記号として存在するというのが岩井の主張である。 経済学においては、こうした記号論的な解釈(欲望・象徴・模倣の連鎖)を導入したことが、ひと先ずは理論への革新的な試みだったという。つまり、経済理論の中に「物語」と「比喩」という異物を持ち込み、抽象的理論の“根底”に潜む人間性・象徴性・欲望を照らし出す試みだったと。こうした所作には、小説家である奥様の価値観の融合が垣間見える気がした、という感想である。 ところで、度々起こる「赤ちゃん人形ブーム」の根底には何があるのか。本源的な部分にも興味が向いた。よくよく調べると、私の記憶していたのは、トロール人形だったが。
本書は貨幣論などで有名な岩井氏のエッセイが多数収められた本になります。著者が最後に述べているように、大きくは1)資本主義論、2)貨幣論、3)不均衡動学論、そして4)他人の著書の論評の4つになりますが、個人的にはやはり貨幣論が一番面白く感じました。そして貨幣論自体は1)の資本主義論や3)の不均衡動学論...続きを読むにも応用されていて、その意味では貨幣論が本全体の根底にあるのではないかと感じました。 岩井氏の主張は深みと面白み、そして納得感をもたらしてくれます。本書で批判を加えている「経済学的思考」についても同様の感想を持ちました。それは何かというと典型的な経済学者は、現実と経済理論が異なる際に、「現実が間違っている」という言い方をします。つまり経済理論こそが真の姿であり、それが何らかの「阻害要因」によって歪められているのが「現実」だというわけです。そんな考え方は馬鹿げていて、「社会」が何かを理解していない研究室で純粋培養された経済学者のたわごとなのですが、主流派の経済学者の間ではそれが当たり前だということになっているわけです。岩井氏はそれに対して非常にロジカルに反論を加えており、大変気持ちよく読むことができました。 全編通じて興味深く拝読しましたが、1点、4)他人の著者の論評、については割愛してもよかった気はします。何かこれだけが本の中で浮いている感じがあり、しかも対象となる本を読んでいない人からすると、岩井氏が何を論じているのかポイントがよくわからないのではないか、という印象を持ちました。1)〜3)のトピックだけの方が締まりが良い気がしました。
面白い!!!ヴェニスの商人の読み方が凄すぎる。 利潤とは、差異から生まれる。 価値体系と価値体系の間の、差異から生まれる。 商業資本主義:(例)東洋と西洋の 産業資本主義:(例)労働力市場と商品市場 今:(例)現在と未来
著者のエッセイや書評、『不均衡動学』の解説や補足をおこなった論考などが収録されています。 冒頭のエッセイ「ヴェニスの商人の資本論」は、著者の妻である水村美苗からアイディアを示された執筆に至ったとのこと。シェイクスピアの『ヴェニスの商人』におけるアントーニオとシャイロックを、共同体の論理と資本の論理...続きを読むの体現者として読み解き、さらにこのストーリーを展開させる「トリックスター」としてのポーシャを、「貨幣の謎」を体現する人物として解釈しています。 「遅れてきたマルクス」という論考は、シュンペーターがワルラスの一般均衡体系からどのように離脱を図ったのかを明らかにするとともに、マルクス主義経済学の観点からその意義について考察をおこなっています。シュンペーターの仕事は、新古典派の文脈の中で、マルクスの「特別剰余価値」に関する議論に相当する思索を展開したものと考えることができます。そして著者は、シュンペーターの企業家たちが技術革新競争を通じて「未来」を作り続けているという解釈を示し、マルクス経済学的な時間論へのつながりを示唆しています。 才気煥発な著者の思考が軽やかなスタイルで展開されており、やや難しいところもありましたが、おもしろく読みました。
記号化や”貨幣”という得体の知れないモノを、当たり前の領域から引きずり下ろしてもう一度考えるきっかけになる本。とてもわかりやすく、記号媒介的な私たちの世界の孕む不気味な雰囲気を描いていると思う。 世界は記号で表象されている。そして計量されている。しかし、貨幣という数字が表象する”資本”はその現実の量...続きを読むとは関係なく際限なく増殖し続けるものだ。
昔(高校生の時)は四苦八苦しながら読んでた評論文だけど、少し大きくなってから、改めて通して読むと面白かった。なんでも経済学的に考えられて、それが思いもしない結論にたどり着く所が。 世の中の全ては、個々の「何に価値を見出すか」によって成り立ってるのね。 経済学の基礎知識を暗黙の了解とするような内...続きを読む容ばかりで、具体例が出てくる話以外は経済を全く学んでいない私には少し難しかった。 どこまでが「一般常識」で、どこからが「筆者の発想」なのか分からないし論理をひねくり回してる感…
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ヴェニスの商人の資本論
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