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引退をひかえていたエルキュール・ポアロだったが、十二の難業 に挑むことになった。「ネメアのライオン」「レルネーのヒドラ」「ケルベロスの捕獲」など、ギリシャ神話がモチーフとなった十二の難事件に、灰色の脳細胞を駆使してポアロが挑む。変わらぬポアロの名推理ぶりを新訳でおくる。
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Posted by ブクログ
テーマを付けた短編集として「火曜クラブ」と並び秀逸。 ポアロのクリスチャンネームがヘラクレス(フランス読みでエルキュール)は有名。今回はポアロとバートン博士が名前について語らっている。(いつの時代もキラキラネーム問題はあるんだなぁ(笑)) ポアロは博士の指摘を受け、自身がヘラクレスらしからぬ事、...続きを読むいや、現代のヘラクレスとして引退迄に十二の事件を解決する事、それが古代ヘラクレスの十二の難業を現代に再現する事だ。と考え、依頼を進めていく。 十二編をコンセプトとしてまとめ、更にはポアロの名前を冠した作品集だ。 第一の事件 ネメアのライオン ミスレモンが整理した手紙について、ポアロが面白い依頼はなかったかと尋ねると、ペギニーズ犬の捜査依頼があると言う。前日に現代のヘラクレスに相応しい事件を解決すると決めていたポアロは怒りに狂いそうになるが、基本的にミス・レモンは勘が鋭い為、渋々依頼の手紙を確認する事に。何か感じるものもあり、依頼を受ける事にしたポアロ。こうして現代版のヘラクレス12の難業がスタートする。 単なる犬探しだけではなく、その裏に潜む根本的な問題の解決、そして依頼人に隠された秘密など。解決方法に賛否はあるだろうが、最初の謎として相応しい事件だった。ポアロが相手にする「ライオン」は可愛らしい気もするが(笑) 第二の事件 レルネーのヒドラ 噂話は決して消える事はなく、まるでヒドラの頭の様に切り落としても生えてくる。妻の死後、噂話ぬ悩まされる医師がどうにか助けて欲しいとポアロの元を訪ねてくる。ポアロは噂の真相を探る為、腹心のジョージを従えて噂話がはびこる町に赴く。途方もない噂を聴きながら、噂の出所を見つけ出す。あわせて、医師の妻の死が自然死ではなく他殺である事を証拠づける為、遺体の掘り起こし、死亡解剖が実施される。 真相に辿り着き、真犯人を見つけ出したポアロ。ヒドラのしぶとさは確かなものだが、見事ポアロが退治した様だ。 第三の事件 アルカディアの鹿 冬の夜にポアロの高級車が故障してしまい、仕方なく歩いて距離のあるホテルを訪れ、宿泊する事に。そこに車の修理工の美男子が現れて修理について説明し、合わせて有名な探偵であるポアロに相談したい事があると切り出す。とある屋敷のボイラー修理を依頼され訪れると、とあるダンサーの美しいメイドがおり、彼女と仲良くなり、再会を約束する。しかし約束の場所に彼女は現れず、きっと何かが起きたのではないかと心配になる。ポアロはこの依頼が三番目の難業に相応しいと考え、彼女の捜索を開始する。ミステリーというよりもロマンスに近い素敵な作品。 第四の事件 エルマントスのイノシシ 第三の事件でスイスに来ていたポアロ。ついでに見た事の無い土地を見て回ろうと観光していると、ケーブルカーの車掌が切符と一緒に一枚の紙切れを渡す。それによればとある凶悪犯がこの地を訪れる予定で、既にホテルに警察が侵入しているとの事。ポアロは第四の事件として親和性を感じ、「イノシシ」を捉える手助けをする事に。最後殺人事件や未遂事件が起きるが、他の宿泊客とも協力し、被害を最小限に食い止める。三日後、刑事達が到着し、一件落着と思われる所、ポアロが衝撃の事実を告げ、どんでん返しが起きる 第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎 ポアロを敵に回すとはどういう事か。万が一ポアロが策略を持って何かを企めばきっと上手くいくのだろう。今回は政治家の不正を元にいかがわしい新聞社がゆすりをしようとするが、相対するのは政治家に雇われたポアロ。政治家側から金銭での解決を提案されたがえ新聞記者は拒否、ポアロ達との交渉を決裂させる。新聞社の記者は政治家の妻の不貞記事や浮気記事などを掲載。世間では記事に対する政治家夫妻の悪い噂が広まり、いよいよ名誉毀損で訴える事に。 新聞記者は名誉毀損について問題視はしていない。一方政治家側は世間の信頼に足る人物の証言、並びに新聞記者が雇って政治家の妻のふりをさせて写真などを準備した女性を召喚、新聞記者が彼女に政治家妻の真似をさせ、様々なスキャンダルを撮影する手伝いをさせられたと証言し、形成逆転、新聞社は巨額の費用を請求され、後々倒産する。政治家ぎほっとする中、実はポアロと政治家妻の仕組んだ罠だったというオチ。ポアロは敵に回すと恐ろしい人物だ!! 第六の事件 スチュムパロスの鳥 構成として猛禽類を思わせる様な恐ろしい見た目の双子の老嬢を登場させ、あたかも彼女達が問題の根幹、この話の敵である様に見せかけてストーリーが展開される。ポアロ登場迄に時間ぎある為、どの様に解決されるのか、どういう事件なのかが読者に判明するのが終盤。それまではドキドキしながら読む事ができる。 世間や上司の評判も良い政治家。独身貴族で自由気ままな人生を送る主人公と、彼と懇意にする母娘。娘は既婚であるが、夫は難しい人であり、娘が男性と話す抱けで嫉妬に狂う様な人物。主人公は娘に想いがあり、彼女の夫を腹立たしく思う。一方、ホテルにポーランドから恐ろしい容姿の双子の老嬢があらわれ、主人公は不吉なものを感じる。そんなおり、娘が悲しみにくれているのを介抱した事が娘の夫につたわり、母娘が宿泊しているホテルに乗り込んでくる。そこから怒涛の展開が起きる。どんでん返しが楽しめる作品。 第七の事件 クレタ島の雄牛 女性からの依頼。婚約を破棄されたというが、相手の男性の様子がおかしいという。父親が息子を海軍から呼び戻してしまう。父親は海軍で働く息子を賞賛していたはずなのに。婚約者の家に赴き事情を探るポアロ。動物の遺体が捨てられていたり、洗面所が血溜まりになっていたり。しかし、男性は覚えていない。おそらく一族の精神異常の血が遺伝してしまったと訝しみ、彼女と婚約を破棄。合わせて男の母親は男が幼い頃にボート事故で亡くなっていた事をしる。 ロマンスからのスタートで、全てが覆される驚きの短編。但し、父親の友人の行動に疑問あり。 第八の事件 ディオメーデスの馬 ポアロの友人の医師からの依頼。とあるパーティに呼ばれた医師。コカインを使用した形跡があり、二人の婦人が治療を受ける。合わせて、錯乱した婦人の一人が銃を数発乱射し、偶々付近にいたホームレスにあたり、医師は治療の為呼ばれていた。麻薬の出所を探る為、また、若い婦人を守る為にポアロが捜査をスタートする。途中に出てくるポアロの知人女性が強烈。ポアロもタジタジなのが面白い(笑)。結末はしっかりと意外なものに着地している。 第九の事件 ヒッポリュての帯 絵画盗難事件と学生失踪事件。ポアロは特に乗り気では無かった絵画盗難事件を調査する過程でとある女学生の失踪事件が発生、警察から相談を受けて興味を持ち調査する事に。調査の過程で、ポアロが追っていた絵画盗難事件と女学生失踪事件の関わりが明るみになっていく。女学生失踪事件は冒頭から全くの謎なので解決されていく過程が楽しめる作品。最後のオチはとてもチャーミング(笑)。 第十の事件 ゲリュオンの牛たち 第一の事件に登場したミス・カーナビィ再訪。犯罪者としてポアロも称賛する人物だが、とある信仰宗教と友人の婦人の件でポアロに相談に訪れる。ミス・カーナビィが信仰宗教の本部に潜入しながらポアロの調査をサポートする。彼女はポアロのスパイとして行動しながら、読者には信仰宗教の怪しさや危険な描写もされており、更には彼女が途中で心変わりがある部分など、とてもスリリングで面白い作品だ。相変わらずペギニーズは利口な様だ(笑) 第十一の事件 へスペリスたちのりんご 金持ちが購入した絵画を巡る事件。絵画が金持ちの元に届く前に盗難事件がおき、絵画がなくなってしまう。盗難した犯人も亡くなってしまい、二度と絵画を見つける事は出来ないと思われたが。警察でもどうする事も出来ない盗難事件とポアロの名推理、そしていつの時代も金持ちというのは悲しい人だという教訓に満ちた作品。 第十二の事件 ケルベロスの捕獲 ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人再登場。ポアロがロサコフ伯爵夫人に振り回される(騙される訳ではないが、やはりポアロも男性だった(笑))大掛かりな麻薬事件がバックボーンになりながら、ポアロとロサコフ伯爵夫人のやり取りが面白い作品。最後、冷徹なミスレモンがポアロの様子を見て口走る描写があまりにも滑稽で、ヘラクレスの冒険は難しい事件と共に堅苦しい十二編にさせず、作品通してのユーモアをつけた様な形だ。動物を使ったトリックはホームズてもよくあるが今作の方が断然分かりやすい。 以上、過去と現代のヘラクレスの冒険が無事完了する。この後、ポアロはかぼちゃ栽培に勤しむ訳だが、どうなるかは「アクロイド殺し」を是非読んで欲しい。
オチが秀逸
ヘラクレスの冒険にちなんだ数々の難事件がどれもそうくるかっていうオチばかりで面白かったです。最終話の最後のミスレモンに爆笑です。あと犬のおばちゃんの活躍が結構好き。思わぬ人に思わぬ才能があるのいいですね。
この本すごい大好き。 ヘラクレスの12の偉業になぞらえた短編集。 盛りだくさんで贅沢な内容だ。 30年間掃除したことのない牛舎を1日で掃除しろと言われた 王様からの難題は、「無責任なうわさを消せ」というポアロへの任務へ。 さて、どうするのか?
エルキュール・ポアロの短編集。ギリシア神話の英雄ヘラクレス(仏語でエルキュール)の12の難行になぞらえて、現代のヘラクレスが持ち込まれるさまざまな事件を解決する。元祖ヘラクレスの難行をさらっと読んでからこの本を読むと楽しみは倍増すること請け合い♪コミカルで楽しく読める至玉の作品集。
はじめて読んだエルキュールポワロのおはなし。エルキュールという名前の意味や12の事件に分かれていてとても読みやすかった。長編が苦手という人にお勧め!!!
ヘラクレスの12の難業を基に依頼を受けるポアロの短編集。色んな種類の事件があって楽しめました。ギリシャ神話のヘラクレスの話も知っていたら、より楽しめたんだろうなぁ。
短編集だけど、そこに「ヘラクレスの難業」というテーマが加わる事でそれぞれ別の事件がひと繋がりであるように感じられるね また、あくまでも難業であり難事件に限っていない点が面白さを生み出している。だから本来ならポアロが依頼を受けるような案件でなくても難業との関連を見出だせれば受け付けてしまう。それが本作...続きを読むに収録された短編をバラエティ豊かにさせているね 収録されている短編は先述したようにバラエティ豊かなものばかり。だからむしろ真っ当な殺人事件の方が少ないくらい その意味では事件への対処法すら曖昧な形で始まる『レルネーのヒドラ』は導入も終着も面白いものだったかな いつまでも止まない噂。その根本に居た怪物を探し出したポアロの手腕は見事の一言 『アウゲイアス王の大牛舎』では珍しい行動を採っているね 大物政治家に降り掛かった一大スキャンダル。普段ならスキャンダルの原因となった事件等の調査に乗り出しても可怪しくない でもポアロはその政治家の人柄を信頼できるとむしろ協力しているね。まあ、一応は世間にスキャンダルの内容そのものは報道されているから完全に隠蔽しているわけじゃないんだけどさ 意外性が有ったのは『ヒッポリュテの帯』かな よくよく考えたらミステリでは珍しくもないトリックなのだけど、2つの事件が重なり描かれた事で騙されてしまったな ミステリは「騙された!」と感じた瞬間がとても気持ち良いだけにこの短編は読後感がとても良かったよ でも一方で『ヘスペリスたちのリンゴ』のオチも中々に好みだったりする
なかなかおもしろかったですよ。 短編なので、トリックを楽しむというよりは引退前のポアロの生活をちょっとのぞくというスタンスでページをめくってください。
「アガサ・クリスティ」のミステリ連作短篇集『ヘラクレスの冒険(原題:The Labours of Hercules、米題:The Labors of Hercules)』を読みました。 ヘラクレスの冒険(原題:The Labours of Hercules、米題:The Labors of Herc...続きを読むules) 『ポワロの事件簿〈1〉』、『ポワロの事件簿〈2〉』に続き「アガサ・クリスティ」作品です。 -----story------------- 引退を控えた「ポアロ」が、自らのクリスチャン・ネームである「エルキュール(=ヘラクレス)」にかけて「十二件の依頼を受けてやろう。しかも、その十二件は、ギリシャ神話のヘラクレスの十二の難業を参考にしてえらばなければならない」と、難事件の数々に挑戦。 オムニバス形式の短篇十二篇を収めた作品集。 新訳決定版。 ----------------------- 1947年(昭和22年)に刊行された「アガサ・クリスティ」の短篇集… 「エルキュール・ポワロ」のファーストネーム「Hercules」がギリシア神話の英雄ヘラクレスに由来することにちなみ、神話上の12の功績をモチーフとした物語で構成されている短篇集です、、、 以前、映像化作品の『名探偵ポワロ「ヘラクレスの難業」』も観たことがありますが、こちらは本書に収録されている『アルカディアの鹿』、『エルマントスのイノシシ』を中心に大幅に改編されているので、別な作品のような感じですね。 ■ことの起こり (原題:Foreword) ■第一の事件 ネメアのライオン (原題:The Nemean Lion) ■第二の事件 レルネーのヒドラ (原題:The Lernean Hydra) ■第三の事件 アルカディアの鹿 (原題:The Arcadian Deer) ■第四の事件 エルマントスのイノシシ (原題:The Eurymanthian Boar) ■第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎 (原題:The Augean Stables) ■第六の事件 スチュムパロスの鳥 (原題:The Stymphalean Birds) ■第七の事件 クレタ島の雄牛 (原題:The Cretan Bull) ■第八の事件 ディオメーデスの馬 (原題:The Horses of Diomedes) ■第九の事件 ヒッポリュテの帯 (原題:The Girdle of Hippolyta) ■第十の事件 ゲリュオンの牛たち (原題:The Flock of Geryon) ■第十一の事件 ヘスペリスたちのリンゴ (原題:The Apples of the Hesperides) ■第十二の事件 ケルベロスの捕獲 (原題:The Caputure of Cerberus) ■解説 東理夫 『ことの起こり』は、プロローグにあたる作品、、、 引退を考えていた「ポアロ」の下に友人の「バートン博士」が訪れる… 彼は「ポアロ」の性格上、引退は無理だと言うが、それに対して「ポアロ」は「ヘラクレス」の難行に自身を例え、最後に12の事件を解いて引退することを決める。 『第一の事件 ネメアのライオン』は、「ポアロ」宛てに「サー・ジョーゼフ・ホギン」という人物から、妻のペキニーズ犬を捜して欲しいという手紙が届き、いつもなら断る類の依頼内容だったものの、「ミス・レモン」から勧められたこと等から何故か気になり依頼人に会うことにする物語、、、 「ポアロ」が「サー・ジョーゼフ・ホギン」の自宅を訪ねたところ、既に愛犬の「シャン・トゥン」は見つかっていた… 夫人のコンパニオンの「ミス・カーナビィ」が、「シャン・トゥン」を散歩させている途中、赤ん坊に気を取られた間に「シャン・トゥン」が誘拐され、その後、200ポンドを要求する脅迫状が届き、身代金を払ったところ、無事に「シャン・トゥン」は戻ってきており、「サー・ジョーゼフ・ホギン」の友人「サムエルソン」も同じ被害にあっており300ポンドの身代金を支払っていた。 「ポアロ」は、「ホギン夫妻」の依頼により、身代金を取り返すべく調査を進める、、、 将来に金銭的な不安を抱く、犬好きのコンパニオンが、自分の飼い犬(ペキニーズ犬の「オーガスタス」)を利用したトリックを使った犯罪でしたが、「ポアロ」は犯人を被害者に暴くことなく身代金を被害者のもとに返し、その後、その事件解決で得た報酬をコンパニオンに贈呈するという粋な解決方法でしたね… 「ヘラクレス」の難行の例えた1件目の事件は、ライオンではなく、ペキニーズ犬(番犬としての勇敢さはライオン並み?)に関する事件でしたね。 『第二の事件 レルネーのヒドラ』は、妻を亡くした医師「チャールズ・オールドフィールド」に対するいわれなき中傷(妻を毒殺したとの噂)を断つべく、「ポアロ」が噂の出所と事件の真相を探る物語、、、 「ポアロ」はさっそく現地に飛んで噂の出所を調べ始める… 「チャールズ」の病院の薬剤師で彼が好意を持っていた女性「ジーン・モンクリーフ」や、「チャールズ」の妻の付き添いをしていた「ハリソン看護婦」、村の住人で詮索好きで噂好きでおしゃべりなオールドミス「ミス・レザラン」、「オールドフィールド家」の召使だった「グレイディス」等の証言を確認しながら真相に近付いていきます。 妻が死んでしまえば、自分が「チャールズ」の妻になれると思い込んだ女性の犯罪… その勝手な思いは叶わないと気付いたときに、愛情は憎悪に変わってしまったんですね、、、 「ヘラクレス」の難行の例えた2件目の事件は、一見、ヒドラとは無関係そうなのですが「噂はまさに9つの首をもつレルネーのヒドラなのです。一つの首を切ると、そこからすぐ二つの首が生えてくるために完全には滅ぼすことができない怪物なんですよ」と「ポアロ」が話すとおり、噂のことをヒドラに喩えているんですね。 『第三の事件 アルカディアの鹿』は、「ポアロ」が雪の中、愛車の故障で立ち往生した村の宿屋で出会った自動車修理工で純朴な青年「テッド・ウィリアムソン」から一目惚れした高名なバレリーナの付き添いの女性「ニータ」を捜して欲しいと依頼を受け、僅かな手掛かりを元にヨーロッパ中を巡り、女性を捜索する物語、、、 「ニータ」の住所の現居住者や、「テッド」が「ニータ」と出会った別荘の主「サー・ジョージ・サンダーフィールド」、バレエ関係者からの証言により「ニータ」の生地がピサであることが判明… 「ポアロ」は、現地まで足を運んで家族と会うことができるが、彼女は盲腸が原因で既に亡くなっていた。 その後、彼女の雇い主だったバレリーナの「カトリーナ・サムシェンカ」を療養先のスイス・ヴァグレーまで訪ね、「ポアロ」は自らの推理を披露… 「カトリーナ」が「ニータ」を装っていたことを確認し、「テッド」と一緒になることを助言する、、、 「テッド」がハンサムで背が高く、ギリシャ神話のアルカディアの羊飼いのようだったことから、「カトリーナ」を鹿に喩えたんですね… なかなか粋な締めくくり方でした。 『第四の事件 エルマントスのイノシシ』は、「ポアロ」がスイスの山頂(標高1万フィートのロシェ・ネージェ)のホテルへと向かうケーブルカーの中で、車掌から「山頂のホテルで殺人犯マラスコーの逮捕に協力して欲しい」という旧友でスイス警察の警視「ルマンテューユ」からの手紙を渡され、事件捜査に協力する物語、、、 ホテルに到着後、ケーブルカーが事故により運行を停止してホテルは孤立… 宿泊客やホテル従業員が敵か味方か判断がつかない中、給仕「ギュスタヴ」が「ポアロ」に近付いてきて、自分は「ドルエ警部」で「マラスコー」逮捕のために給仕に変装していることを打ち明け、協力を申し出る。 その夜中に「ポアロ」が三人組みの悪党に襲われ、その直前に給仕「ギュスタヴ」に化けていた「ドルエ警部」が襲われて顔を大きく傷つけられていた… そして、勤務態度が悪く解雇されて山をおりたはずの給仕「ロベール」がホテル内の使用されていない部屋で死体としてみつかり、その胸には「マラスコー」であることを示すメモがあったことから、悪党たちの仲間割れで「マラスコー」は殺害されたと思われたが、、、 実は殺された給仕「ロベール」の正体が「ドルエ警部」で、負傷を負った給仕「ギュスタヴ」の方が「マラスコー」だったという意外な展開… しかし、「ポアロ」の眼を欺くことはできませんでしたね。 危険な殺人犯「マラスコー」はイノシシと呼ばれていたことから、エルマントスのイノシシを生け捕った「ヘラクレス」に喩えたんですね。 『第五の事件 アウゲイアス王の大牛舎』は、国民のシンボル的存在であった前首相「ジョン・ハメット」は、実は悪辣な人物であったことが、X線ニュース紙に嗅ぎ付けられ、娘婿にあたる現首相「エドワード・フェリア」に依頼された「ポアロ」は、暴露記事を掲載しようとする雑誌社の目論見を阻止するために立ち上がるという物語、、、 「ポアロ」は、「ジョン・ハメット」の娘で「エドワード・フェリア」の妻「ダグマー」の協力を得て、「ダグマー」のスキャンダルをでっちあげてX線ニュース紙を欺き、X線ニュース紙を名誉棄損で訴えて窮地に追い込むとともに、信用を失墜させて「ジョン・ハメット」の醜聞が暴露されることを防止する… 「ポアロ」の方が何枚も上手でしたね。 「アウゲイアス王」の大牛舎の大掃除の神話(良くは知りませんが…)のように、大洪水のような猛烈な力でスキャンダルを洗い流した… ということのようです。 『第六の事件 スチュムパロスの鳥』は、休暇先のヘルツォスロヴァキアのステンプカ湖畔のホテルでイギリス政府の次官「ハロルド・ウェアリング」はしっかり者の中年女性「ライス夫人」と酒癖の悪い夫から逃げてきたという彼女の娘「エルジー・クレイトン」と出会うが、そこへ「エルジー」の夫「フィリップ」が現れて妻を連れ戻そうとし、彼女は抵抗の末、夫を撲殺してしまうという事件に「ポアロ」が関わる物語、、、 「ライス夫人」と「クレイトン夫人」は、地元の警察、ホテルの支配人などと交渉し、金品を贈って「フィリップ」の死を事故にすることにし、「クレイトン夫人」には罪がなかったことにした… 「クレイトン夫人」に好意をもち、現場に居合わせていた「ハロルド」はイギリスから為替を送らせて費用を立て替えて、事件は闇に葬り去られたと思われたが、スチュムパロスのような不吉な印象を与える二人のポーランド人姉妹が「ライス夫人」の所に来て、「フィリップ」の事件をネタに恐喝をはじめた。 ここで初めて「ポアロ」が登場… 「ハロルド」から相談を受けた「ポアロ」は、外国語に弱い「ハロルド」が騙されていることに気付き、事件解決に協力する、、、 スチュムパロス湖のほとりに棲み、人間の肉を常食としていた鉄の嘴をもった鳥… スチュムパロスの鳥は、ポーランド人姉妹ではなく、「ライス夫人」と「クレイトン夫人」だったんですね。 『第七の事件 クレタ島の雄牛』は、依頼人の女性「ダイアナ・メイバリー」から、婚約者の「ヒュー・チャンドラー」が自分自身を狂人であると思い込み婚約を破棄したと言う相談を受けた「ポアロ」が「チャンドラー家」を訪ね、その真相を探る物語、、、 「ヒュー」は、夜中に本人の意識がないままに、剃刀やナイフで羊や犬や鶏などの動物の喉を掻切っているのだという… 動物を殺した記憶は本人にはまったくなく、気がつくと血に染まった剃刀を持っていたり、血で真っ赤になった洗面器の前で気を失っていたりするのだった。 「ダイアナ」は「ヒュー」が精神的な病気だとは納得せず、何かほかの原因があるのでは… と「ポアロ」のところに相談に来たのだった、、、 自分が狂人だと信じ込ませて、自殺へ追い込む… という殺害方法は想定内でしたが、まさか父親が真犯人とは思いませんでしたね。 まっ、自分の親友が息子の父親だった… という動機を知れば納得かな、妻も事故にみせかけて殺していた前科もあったしなぁ、、、 「ヒュー」の男らしさが漲る立派な堂々たる体躯をクレタ島の雄牛に喩えたんですね。 『第八の事件 ディオメーデスの馬』は、「マイケル・ストダート医師」から深夜に電話により呼び出された「ポアロ」が麻薬騒ぎの後始末を頼まれる物語、、、 「ストダート医師」は好意を持っていた「シーラ・グラント」がコカインパーティで倒れたことを憂いており、彼女が麻薬の常習者にならないようにしたいと願っていた… 「ポアロ」は、「シーラ」の父親で退役軍人の「グラント将軍」を訪ね、コカインの出所を探っていく。 いやぁ、意外な展開… 加害者と思っていた若者の「アントニー・ホーカー」が被害者としてスケープゴートにされようとしていて、実は「グラント一家」が悪党一味(しかも、家族じゃなかった)とは、、、 麻薬密売者を、人の血を吸い肉を喰ディオメーデスの馬に喩えた物語でした。 『第九の事件 ヒッポリュテの帯』は、知人で画廊の「アレクサンダー・シンプソン」から、「ルーベンス」の描いた名画「ヒュポリュテの帯」が何者かに盗まれた事件の捜査を依頼された「ポアロ」は、もうひとつの興味ある事件… パリにある名家の子女のための教育施設であるミス・ホープ学院に入学するために、イギリスからフランスに渡った19名の少女の一人「ウィニー・キング」が行方不明になった事件の捜査とあわせてフランスに旅立つという物語、、、 「ウィニーが失踪した列車は途中に停止していないことや、「ウィニー」が沿線で後日麻薬でフラフラになって発見されたこと、「ウィニー」の編み上げ靴や帽子等、嵩張るモノが沿線に捨てられていたこと、「ウィニー」のスーツケースが何者かによって持ち去られたこと等から、「ポアロ」は「ウィニー」がイギリスで誘拐されて、別な人物が列車の乗り込んでいたと推理する。 無関係と思われた二つの事件を「ポアロ」は一気に解決… 窃盗犯一味は、ミス・ホープ学院に入学する少女たちと一緒に行動することで、関税がフリーパスとなり、盗難した「ヒュポリュテの帯」をフランス国内に易々と持ち込んでいたんですね、、、 盗まれた絵画が「ヒュポリュテの帯」だったので、そのまま「ヘラクレス」の難行の9件目になりました… エンディングで、群れになった25人の少女に取り囲まれてサインをせがまれる「ポアロ」の姿を想像すると笑えましたね。 『第十の事件 ゲリュオンの牛たち』は、『第一の事件 ネメアのライオン』で知り合った(加害者ですね)女性「ミス・カーナビィ」が「ポアロ」を訪ね、新興宗教「羊飼いの信徒」にのめり込み、財産を教団に遺そうとしている彼女の親友「エメリン・クレッグ」のことを相談する物語、、、 教団の信徒の中に大金持ちの女が何人かいたが、そのうち昨年中に少なくとも3人が、教団に全財産を寄付して死んでいた… それも全て孤独で身寄りのない女ばかりだったことから、「ミス・カーナビィ」は「エメリン」が同様の境遇であることから心配していたのだった。 彼女は、ハンサムな教祖「アンダースン博士」に惹かれており、忠告は全く聞き入れてくれない… 「ポアロ」は「ミス・カーナビィ」に、大変危険な役割だが、教団に信徒として潜入するように頼み、「ミス・カーナビィ」も承諾、、、 教団に入ると集団で不思議な行事が行なわれ、教祖が腕に触れるとチクリと痛みを感じ、「ミス・カーナビィ」はすぐに恍惚とした感じに陥った… 使われていたのは大麻だったんですよね。 怪しげな教団の人物「コール」が潜入捜査をしていた警察官だったり、教団の門番「リプスコム」を「ミス・カーナビィ」の機転の利いた行動で欺いたりと、新興宗教の秘密を暴く冒険的な要素が強い作品でした… 「アンダースン博士」を怪物「ゲリュオン」に喩えたようですね。 『第十一の事件 ヘスペリスたちのリンゴ』は、大富豪「エマリー・パワー」から、10年前に3万ポンドで競り落とした後、「パワー」の手に渡る前に前の持ち主の貴族「サン・ヴェラトリーノ侯爵」の邸から盗まれてしまった「ボルジア家」の金の酒盃を取り戻して欲しいという依頼を受けた「ポアロ」が、世界を股にかける窃盗団を追って旅に出る物語、、、 国際窃盗団の3人が逮捕されたが、主犯格の「パトリック・ケイシー」が逮捕の際に窓から飛び降りて墜落死し、残りの2人の供述からは、安物の美術品だけが見つかり、「ボルジア家」の金の酒盃はどこにあるかわからなかった… 「ポアロ」は、「パトリック・ケイシー」の娘が修道院に入ったという話をヒントに金の酒盃を見つけ出し、「パワー」のもとへ届けるが、その際、「パワー」に対し酒杯を修道院に送り返すことを提案する。 尼僧に聖杯として使ってもらう方が酒杯にとっては幸せだったのかも、、、 「ボルジア家」の金の酒盃は宝石をちりばめた蛇が、リンゴのなる一本の木に絡みついた見事な細工があったことから、「ポアロ」は、ギリシャ神話のヘスペリスたちのリンゴを思い浮かべたようですね。 『第十二の事件 ケルベロスの捕獲』は、「ポアロ」がかつて惹かれた「ロサコフ伯爵夫人」と地下鉄駅で偶然再会し、彼女が経営するナイトクラブ「地獄」へ招待されるが、その店は麻薬と宝石の取引が行われている疑いがあることを「ジャップ警部」から聞き、真相を確かめる物語、、、 「ロサコフ伯爵夫人」は無罪で、「ロサコフ伯爵夫人」の息子「ニッキー」の婚約者「アリス・カニンガム」が裏で手引きしていたんですよねぇ… そして、警察が2度も手入れに入って発見することができなかった麻薬は、店の番犬のグレイハウンドの口の中に隠されていたとは。 「ポアロ」は、「ロサコフ伯爵夫人」を窮地から救い… 恋心が再燃して年甲斐もなくアプローチを、、、 まっ、ハッピーエンドなんで、この終わり方もありかな… 最後の難行は、グレイハウンドをケルベロスに喩えた物語でした。 引退を意識した「ポアロ」が、引退前に12の事件を解決することがテーマになっているからか… 老齢になった「ポアロ」が柔軟に事件を解決している感じがしました、、、 バラエティ豊かな12の難事件… どの話もコンパクトにまとまっているし、遊び心があり、心地良くミスリードさせられる展開が多くて、愉しめましたね。
ポアロの短編集。ヘラクレスの12の試練になぞらえ、12個の話が描かれる。とはいえ、ヘラクレスの試練は全く知らないので、どの程度関連性を持っているのかはよくわからない。 殺人事件ではなく、モノの探索や犬の誘拐、麻薬捜査など、普段とは違った観点のお話。しかしクリスティらしく、人間情緒溢れた話。 個人的...続きを読むに、クリスティの短編は人物相関がすぐわからなくなって読みにくかったのだが、本作は(殺人事件ではないからだと思うが)比較的読みやすく、短編でさっと読めるのも良かった。
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