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死は、けして敗北ではありません。人生を、医療任せにしてはいけません。――「亡き母が手を握ってくれた」「夫と愛用車でドライブに行った」――これまで幻覚・せん妄として治療対象であった「お迎え」現象が、死生に向き合う貴重な過程として医療現場で注目されています。死を怖れ、痛みとたたかう患者に何ができるのか、緩和ケア医として2500人を看取った医師が終末期医療のあり方、死との向き合い方を問いかける。
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Posted by ブクログ
死を常に意識して毎日を大切に生きて行きたい。 でもそんなに簡単に死を受け入れられない。 本当に難しい話だと思う。
タイトルだけ見るとスピリチュアル系の本のようである。だが著者は現役の医師で、病院の診療部長として、臨床と教育の両面で緩和ケアに携わっている人物である。 近年、日本で臨終を迎える人の多くは、病院で息を引き取る。全体としては8割、癌患者では9割という。こうした状況は実は先進国でも珍しく、背景には日本独...続きを読む自の国民皆保険制度がある。それ自体はすばらしい制度ではあるが、何かあればすぐ病院へ、という風潮は自然、強くなる。 病院は、その性質上、「病気と闘う」ところである。可能性がある治療法があれば試す。こうすれば治る「かもしれない」、治る「可能性がある」手立てがあれば、提案する。 ここでは、基本的に、「死」は敗北である。「自分は絶対に治る」と頑張る患者もいれば、「こうすれば助かったのではないか」「こんな手段もありえたのではないか」、とあきらめがつききれない遺族も出る。 だが、極端なことを言えば、最終的にはヒトの死亡率は100%である。長く見積もっても、百数十年を過ぎれば、どんなヒトでも必ず亡くなる。 「死」が敗北であるならば、誰しも負け戦を生きていることになる。 一方で、病院での臨終は、往々にして、画一的になりがちであり、家族から切り離されがちである。 口から食事が出来なくなれば、点滴で栄養を入れる。 精神状態が悪くなれば、強い薬で意識レベルを落とすこともある。 実際に危ないということになれば「ご家族は外でお待ちください」と病室から出される場合もある。 そうした中で、弱っていく親しい人に十分ふれあう機会がないまま、別れの時を迎える家族もいる。 これでは患者も不本意であり、家族にも悔いを残すのではないか。 著者は職業柄、多くの人を看取ってきている。その中で、印象に残ってきたのが「お迎え」現象である。臨終が近くなると、「ああ、お兄ちゃんが迎えに来てくれたよ」「お母さんがあそこで待っている」と、以前亡くなった親しい人の姿を見る人がしばしばいるのだという。 こうした場合、現代医学では「幻覚」や「せん妄」症状と見なして「治療」の対象とされる場合もある。 だが、本当にそれでよいのか。 本人が「あの人が待っていてくれるから」と安心して息を引き取ることができ、家族が「よかったね、あの人に会えるよ」と送り出すことが出来るのなら、「お迎え」現象はむしろ、喜ばしいことではないのか。 少し前までは、医療者が「お迎え」現象を語るなど、言語道断だった。「非科学的」とも言える現象だからだ。だが近年、医療者の中にもこの現象に注目する人が増えている。 著者はこの「お迎え」を日本人の死生観にあったものと見る。 強い宗教的信念を持たない人も多いが、日本人は、神社で手を合わせ、寺に参り、大木を祀ってきた。何とはなしに大気に満ちる「何者か」を敬う風潮は昔からある。 誰しも「死」を迎えるのは一度だ。どんな世界なのかわからない「あの世」への架け橋を、親しかった懐かしい人がともに渡ってくれるなら、それは怖いことではなくなる。本人にとってはうれしいこと、遺族にとっては安心なこととなりうる。 盆の迎え火。墓参り。 「この世」と「あの世」との境界はゆるりと越えるものであったのかもしれない。 厳しい治療で身体を痛めつけるのではなく、薬で意識を落としてしまうのでもなく、最期のときをゆるやかに過ごせれば理想的なことだろう。 高齢化社会を迎え、一方で、病院の病床数は限られている。今後は、病院で死を迎えられない人も増えるだろう。自宅での看取りも増えていくと目される。自宅介護には家族の負担の大きさもあり、きれい事では済まない部分もある。 家族や自分にとって、どんな臨終がありうるのか、どんな臨終が望ましいのか。亡くなった後の葬式や墓を考えるだけでなく、臨終自体を考える「終活」があってもよい。 もちろん、どんな死を迎えるのか、予測はつかないが、いざそうなる前に、あれこれ考えるヒントをくれる1冊である。
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「お迎え」されて人は逝く
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奥野滋子
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