本書の内容を語る前に、用語の解説をしておこう。日本語では「情報」と一括りにされるが、英語では Information と Intelligence の2種類が存在する。Information とは文書情報、通信情報をはじめとした生の情報、Intelligence とは Information を多角的に集めて分析を行ったものである。本書では Information を天気図、 Intelligence を気象予報にたとえて説明しているが、言いえて妙である。Information は、読み解くスキルがなければ価値がないのだ。
ところが問題はそう単純ではない。日本軍は組織として Information と Intelligence を区別しておらず、そのため情報部の地位が低かった、というだけが問題ではない。2つ目の問題は、「優秀な」作戦部が目先の戦術目標達成のために Information をうまく利用できていたことである。
日本軍の南方進出において、陸軍はマレー半島のことをよく調査してから作戦に臨んでいる。調査は主に作戦部が主導し、結果は知られている通り大成功に終わった。戦術的な情報利用では、目的が明確でタイムスパンも短いため、優秀な人材を集めた作戦部が Information を扱っても問題がなかった。