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いま必要なのは短絡的な動員ではなく、忘却にあらがう力だ。天災、疫病、祭典、犯罪、戦争。哲学者の知性と探求心は、ジャーナルな事象の「意味」を語り継ぐべき記憶へと書き換える。東浩紀が世界的な転換期と5年にわたり対峙した決定的時評集。
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Posted by ブクログ
読み始めて数ページは「なんだ週刊誌のコラムのまとめか」と思ったが、読み進めていくうちに引き込まれた。 毎日の日常を当たり前に生きていると漠然と変化を感じることはあるけどその正体はよくわからない、しかも日常だから深く考えずに過ぎてしまう。でも冷静に去年の今頃とか3年前とかを思い返すと、だいぶ変わってき...続きを読むたんだなと感じることがある。そういうことが週刊誌のコラムであるからこそ小刻みの等間隔で振り返れて、世の中がじわじわと確実に変わってきたこと、または結局変わってないことなどをリアルに実感できた。自分が生きている時代(2017年1月〜2022年4月)を見つめ直す有意義な機会をもらえた。 そのような大局的な時代の変化を振り返ることができただけでなく、毎週のコラムの中身も示唆に富んでいる。 迷惑と権利、政治と経済、政治とメディア、ネット社会と民主主義、政府と国民、与党と野党、ジェンダー、加害者と被害者、感染症と差別、感染防止と経済・自由、五輪、ロシアとウクライナ、などなど。世の中の諸問題の複雑さ、虚しさ、でも向き合って考え続けること、忘れないことの重要性などを実感できた。 終盤までの感想は概ね以上だけど、最後の方、特にコロナ禍以降と最後の付録を読んで、筆者東さんが平成以降今に至るまでの日本の現状にかなり失望しているということが強く印象に残った。 東さんのことは「ゲンロン戦記」を読んで「シラス」?での対談の一部をYoutubeで拝見したくらいしか存じ上げないが、不器用で誠実で少しお茶目で、前向きに真剣に世の中のことを考えている方という印象だった。それだけに今の社会にこんなに諦めを感じられているのかと知ってなかなかショックだった。気持ちは分からんでもないけど、今こそ刺激的で面白い世の中だと思うし、失望しているより前向きに生きている方がやっぱり絶対にいいと思う。 自分は東さんより10個くらい年下の若造だけど、こんな誠実で愛すべきおっさんが世の中に失望しているのは勿体無い、よりよい社会にしなければ、と思ってしまった。 いずれにしても、即時的で雑多な情報に惑わされずに、地に足つけてじっくり考えながら前向きに成熟していきたいと思った。
【はじめに】 本書は、2017年1月から2022年4月までの約五年の間週刊『AERA』に掲載された巻頭コラム131回分を収めたものである。ざっとこの100回を超えるコラムを読むと、この五年間でそれなりのことが起こったのだなと改めて思い返される。 【五年間のこと、特に政治について】 その五年間のコラ...続きを読むム掲載期間の後半は、日本中がコロナに翻弄された。著者も何度も言及し、なし崩し的に権利の制限が行われたことが後世に与える影響を懸念している。 また、アメリカでのトランプ大統領の誕生も驚きではあったが、政治的出来事としてある意味ではとてもこの五年間までの政治の変化を象徴する出来事であった。一方でこの五年間は日本では安倍長期政権から菅政権、岸田政権と首相が変わった時期と重なる。そういえば、平成から令和になったのもこの五年の間に起きた出来事である。小池百合子都知事が豊洲市場移転問題などで政治を劇場化したが、日本の政治的にも不毛で、結果としてあきらめが先行した時代であった。そして、時同じくしてメディアも歩を合わせて信頼を失ってきたように思える。著者は、常に自民党と共産党以外の党に投票をしてきたが、もはやその投票行動も意義を認められないものになっていると独りごちる。 また、日本の女性の地位の世界基準に対する低さにも何度か言及する。そこに著者の問題意識があるのもよくわかる。マイノリティの問題、ヘイトの問題なども何度か取り上げられた課題である。政治とは敵と味方にわけることだとしたカール・シュミットの言葉と、社会はそうであるべきではないということも著者はコラムの中で繰り返している。 著者の会社が催行するチェルノブイリ原発ツアーも何度か言及され、ウクライナとロシアの危うい関係も触れられている。このときにはまさか本格的な戦争になるとは想定していなかったであろうが、このころからウクライナには影は落ちていたことがわかる。 【平成という病】 この本は131回の連載コラムが再掲されていると書いたが、この後に「平成という病」と名付けられたエッセイが置かれている。このコラムが著者の独白のようで平成という時代が個人的にどのようなものとして位置付けられているのかを語ったものである。 東浩紀は1971年生まれで、自分とほぼ同世代である。著者は自らを平成の批評家であり、令和の時代においてはもはや新しく社会の流れを作っていくような仕事をすることはないだろうと語る。そして、その身を捧げた時代である平成のことが好きではないという。 「かつて日本には未来があった。平成の三十年は、祭りを繰り返し、その未来を潰した三十年だった」というのが著者による平成の総括である。確かに経済的にはその通りであったし、政治的にも一時の政権交代があったものの祭りとして過ぎた後に自民党政権は盤石のものとなった。 平成という三十年の時代は同じく自分にとっても人生の中での重要な時期を概ね占めている。昭和が高校生までで実家にいた時代で、平成になって独り暮らしを始めて、社会人となって家族も持って子供も生まれた。世界の中で日本は第二位の経済大国であり、優れた車や家電製品を世界中に輸出していた。電子立国とも言われていたその時代に、自分も少し高揚した気分で電子工学科を選んだことを思い出す。 【忘却にあらがう】 タイトルの『忘却にあらがう』は、第一回目のコラムで使われた言葉だ。忘却にあらがうことを、言い換えれば著者は「「意味」を探る力」であるとする。 著者はいずれのコラムでもその短い文章の中に、自分でよく考えるべきだ、というメッセージを出していたように思う。一方で、そこにある種の諦めも感じ取れてしまう。著者は平成を不毛な時代と断じ、その時代に共振して不毛な人生を過ごしてしまった人も多かったのではないかと書いている。著者として、この諦観は、もはや積極的に選択されるべき諦めであるのかもしれない。それでもなお、この本のタイトルを『忘却にあらがう』としたように、僕たちは「意味」を探っていくことは忘れないようにしたいと思うのだ。
筆者は一貫して、人々は自分の頭で考え自分の振る舞いを周囲に惑わされないことの大切さを訴えている。この5年間の時事を見つめ直すにも良い一冊。
本書は2017年から2022年までの出来事をコメントしているが、表題にあるように忘れていることが多い.このような形で残しておくことは非常に重要だと思う.特にCOVID-19に関して政府のドタバタ劇は思い出しても噴飯ものだ.トランプの登場も同じようなものだ.人口に膾炙した事件を違った角度から見つめ直す...続きを読む種を与えてくれる好著だと感じた.
2017年1月2日・9日合弁号から2022年4月19日号までの週刊誌AERAの巻頭コラム131本。まったく「忘却にあらがう」こと出来てません。すっかり忘れていることばかり。今日より明日という未来志向に駆動されてしまっています。昨日のことを思い出させるのはGoogleのフォトライブラリーの思い出リマイ...続きを読むンダーばかり。そこには本書で語られるような写真に写らない出来事は皆無。景色と友人と食べ物しか自分の昨日はないのかよ、と思っていたらスマホのプッシュ通知で「森友改ざん問題で元理財局長の責任認めず」とのニュース。そういうことも知らせてもらう時代に、自分の中にどんな「忘れたくない」テーマを持ちうるのか、とかとか考えてしましました。
巻末の付録の「平成という病」がこの本の本質なのだろう。東さんが平成を生きたこれまでに失望し、疲れ、やる気を無くし、それでも令和という時代を迎え、偽りでない希望を見出そうとまた立ち上がりそうな気配だ。 なーんて偉そうなことを言える人間ではないが、この人は本当に素直に自分の失敗だったり不明だったりをきち...続きを読むんと認めている。だから、自分はこの人を信用するのだが、批評家(だった?)なのだから起こったことにしか見付けないのではなく、哲学者(だった、そして今は?)なのだから、これからの日本がどうなるのかまではきちんとわからなくても、どうしていくべきなのかの一つの方向性を教えてほしいと思っている。
社会問題が風化してしまうことは避けられないことだとは思うが、かといって世の中で起きていることを瞬間的に、表面的に捉えたくはない。政治がどんどんパフォーマンス化されてしまっている今だからこそ、事の本質を見抜き、「意味」を探ったり考え続けられる人でありたい。
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