十代の、恋愛とも呼べないような性の熱。あの頃特有の渇き、脆さ。友達には話せない、ひっそりと心のうちに秘めた激情。大人になると忘れてしまう感覚を、鮮やかによみがえらせてくれる作品。
短編『ジェリー・フィッシュ』を読み終えたあとの、胸を掻きむしられるようなせつなさを、この『もう二度と食べることのない果実
...続きを読むの味を』の読後感でも味わいました。まさに、もう二度と触れられないあの頃の感情の純度に、泣きたくなる。
主人公の女子中学生・冴は受験生。成績は学年2位、毎日決められたことをやり、正しい道を進もうと心がけている。
成績1位は同じクラスの土屋くんで、彼は何かにすがるように勉学に励んでいる。
理科準備室の掃除当番で二人きりになった冴と土屋。偶然の事故をきっかけに、二人は体をあわせるようになる。
妊娠の危険があるからと土屋くんがコンドームを買い求める場面から、これが伏線となるんだろうと読めたけど、そのわりにはページ数が薄めなのでどうなるのかなと思っていたら、あぁそうなるのか……ときれいなまとめ方に感心しました(結局どうなったのかという点は直接的には書かれていないので、生理や妊娠に関する知識が薄い人にはピンとこないかもしれないけど)。エンタメを求めるなら、もっとストーリー展開があってもいいのかもしれないけど、この世界観にはこの展開がグッときました。
土屋くんの心のうちは直接表現されていなかったけど、彼視点から深めた物語も読んでみたいとも思えるような、余韻の残る終わり方。
雛倉さりえさんの作品を読むのは、『ジェリー・フィッシュ』『ジゼルの叫び』に続いて三作目ですが、わかりやすさや共感のしやすさでいえば本作が一番でした(だからこそコミック化もされたのでしょうが)。そういえば他の二作は連作短編集ですね。短編は複数視点から読める楽しみがあるけど、やっぱり中編や長編が良いですね。深く潜れるので。
体をテーマにしているだけあって、理科準備室の臓器模型の描写が美しかったです。