良書。星野リゾート躍進を描く第2ステージの書です。
テーマはエンパワーメント、個人や集団の持つ力を引き出し、活性化することです。
創業、第1ステージでは、星野氏が自ら先頭に立ち、改革をすすめてきましたが、この第2ステージでは、現場のそれぞれのメンバーに権限を委譲し、問題解決を図っていきます。
もう一つのテーマは、事件、事件を解決するから事件簿となっています。終章にピーター・ドラッカーの「イノベーションと企業家精神」の中で、イノベーションが起きる7つの機会についての記載があります。その一つが、「予期せぬ成功と失敗を利用する」です。星野氏は、星野リゾートに起こったさまざまな課題と、「予期せぬ成功と失敗」=事件と称し、企業変革のためのイノベーションであったことを告げています。
気になったことは以下です。
・実家の事業を継承したときの最初の大きな課題は社員の採用難と低い定着率であった。その解決方法として着目したのが米国の経営学者、ケン・ブランチャード氏のエンパワーメント理論だ。①会社情報を全社員と共有、②階層組織の思考をやめる、③失敗を学習の機会と考える といったステップを忠実に実践。役職や年齢にかかわらず、自由で対等に意見交換する「フラットな組織文化」を導入すると、スタッフが考えながら仕事をするように変わっていった。
・状況を変えるにはそれまでの部門のあり方や部門間の関係を見直し、一体となって相乗効果を出して競合に向かうべきだ。このとき星野が掲げたキーワードが、「スクラムを組みなおす」だ。
・これをやっていれば伸びる。という確信がまったくもてないままだった。さらに言えば、それまで考えていたことも改善策も机上の空論だった。このままではコロナ禍が終わったとしても、客がくるイメージがない。マーケティング戦略の責任者として自分納得できる戦略をつくらないことには進まない。そのためには自分で現場を見たほうが早いと判断した。
・正しいロジック、説得力のあるロジックをつくるためには、現場を正しく把握することが必要になる。完成度を高めるには、実際のお客様を知ることが大切になってくる。
・(アクシデントに際して)寄り添う気持ちを忘れないことだと改めて感じた。スタッフと一致団結して案を出しあえたし、それまでにない出来事の中で、少しだが、強くなれた気がする。
・(老舗旅館のリニューアルに向けて)歴史、伝統を紡いできた施設が「いつのまにか閉まっていた」ではもったいない。「丁寧に閉じる」というクロージングイベントの方向性を示す言葉が自然とでてきた。
目次は、以下の通りです。
はじめに
第1章 考えて、議論して、動いたら、ここまできた
崩れたスクラム OMO7旭川
消えたビジネス客 BEB5土浦
第2章 ミスもピンチも前向きなエネルギーに変える
寒風の絶景温泉 界箱根
停電の結婚式 軽井沢ホテルプレストンコート
大浴場、稼働に試練あり 情報システムグループ
ビュッフェ中止の残念感 リゾナーレ熱海
第3章 常識からの決別
冬期営業、再開の高い壁 奥入瀬渓流ホテル
近くて遠い大観光地 ロテルド比叡
第4章 次のステップに踏み出す
踊り出した経理担当 星のやバリ
前例なき再生 界長門
「長すぎた階段」との別れ 界熱海
あとがきに変えて ユニークな働き方が次々に生まれる理由
解説 変わったことと変わらないこと 星野佳路 星野リゾート代表