旅客や乗組員等、船内にいる人すべての避難が済むまで船長は船舶を
去ってはならない。
でも、ティレニア海で座礁・転覆したコスタ・コンコルディア号は
さっさと船外に逃げ出して塩害警備隊から「船に戻れ。船にはまだ
人がいる」と叱責された。
コスタ・コンコルディア号のように座礁も転覆もしなかっ
...続きを読むたが、船に
乗組員全員を残したまま、船を離れた船長がいた。
アメリカ船籍の貨物船マークス・アラバマ号は、ソマリア沖を航行中に
海賊に拿捕された。リチャード・フィリップス船長は船と乗組員を守る
為に、自ら海賊たちと共に救命艇に乗り込み、貨物船を離れた。
2009年4月に発生したソマリア海賊によるシー・ジャック事件の中心
にいたフィリップス船長の手記が本書である。拿捕される数日前から
アメリカ海軍特殊部隊による船長救出作戦の成功後まで、自身の航海
や家族に対する思いや、船乗りとしての体験等を織り交ぜながら綴ら
れている。
救命艇で貨物船を離れ、海賊たちに命を脅かされながらも彼らを冷静
に観察している場面もいいが、なんといっても手に汗握るのは海賊たち
に乗りこまれた貨物船内で、以前に行った海賊対策訓練を確実に実践し、
まんまと海賊たちの裏をかき、乗組員たちを守る場面だ。
救命艇からの脱出の失敗、死の恐怖と対峙した時の心情も正直に記さ
れており、その臨場感が強烈に伝わって来る。
船と運命を共にすることで責務を果たす船長もいれば、船から離れる
ことで責務を果たす船長もいる。それが、船と乗組員を守る為であれ
ば、船長がいる場所が責務を果たす場所になるのだろう。
本書は「キャプテン・フィリップス」のタイトルで映画化もされている。
私はまだ観ていないのだが、原作を読んで俄然興味を惹かれた。そのうち
に映画も観てみよう。