小さい頃読み漁った戦争漫画だとB-29の思い出が多い。恐らくは図書室に全巻揃っていた「はだしのゲン」からの広島原爆投下のイメージとインパクトが大きかったのだと思う。子供ながらに先端の網目の様に描かれたガラスの風防のイメージは良く記憶に残っている。恐らくは爆撃をある程度人の目視に頼っていた時代だからこ
...続きを読むそ、陸地が見える独特の形状になったものと思うが、記憶の中のそれはトンボの眼を思い浮かばせる。だから今でも田舎でトンボが飛んでいるのを見ると、何処となくB-29を思い出すのである。
本書はまさにタイトル通り太平洋戦争期のアメリカの戦略爆撃機B-29を取り扱うものだが、前述の記憶から思わず本屋で手に取ってしまった。
ライト兄弟によって飛行機が生まれてから僅か数十年の間に、人類は飛行機を戦争に使うことを思いついた。初めは偵察目的が主でありながら、やがて飛行機から爆弾を投下する事が目的になり、零戦に代表される様な飛行機同士の空の戦い、ドッグファイトの時代に移る。もしレーダー技術が先に進化していたら、空から敵地を見下ろす必要性も少ない事から、もっと飛行機の技術進歩は遅れただろうか。いや、誰もが空を眺めては自由に風を切る鳥たちに憧れ、空を飛びたい衝動に駆られて生きてきた。
戦争利用に於いては日本軍も中国の都市を次々と爆撃してきたし、誰もが知る様なドゥーリットル飛行隊による本土爆撃や東京大空襲、その他主要な日本の都市は悉くアメリカにより空から蹂躙された。本書では当時の防空小説の記述も多く引いている。空襲で予想される悲惨な事態を関東大震災に擬えて記載したものなどが存在する。「(爆撃が)本格的になってからは正味五か月の空襲によって東京を始め全国120の都市が大損害を被り、その中の44都市までは町の大半以上を喪失し、殊に大戦末期に至っては、一夜の空襲によって数箇所の都市が同時に地上から消滅し去る如き言語に絶した状態を現出するに至った。」とある様に太平洋戦争、特に日本の敗戦が濃厚な時期を象徴する書籍も数多くある。岩波文庫の早乙女勝元「東京大空襲」が地上を覆う業火に逃げ惑う人々の姿をリアルに感じるものとして、悲惨さを理解するには役立つ。
そうした書籍からも、防空を意識した都市作りの重要性が伝わってくる。当時の日本は大半が木造建築だから、一度火をつければ次々と延焼が拡がりあっという間に火の海になる。アメリカは特に東京大空襲においては、ガソリンをばら撒くだけでなく、風向きや効率的に焼き尽くす為の落下地点まで計算に入れて爆撃をしていた。この時点では一般人を含む無差別爆撃になり、今なら各国の非難を浴びそうなものであるが、当初のアメリカが民間人被害を避ける考えの元で中々成果が上がらなかった頃に比べ、トルーマン時代には「戦争を後押しする国民自体が敵(戦争の原動力)」と振り切ってからの殺人成果は圧倒的に飛躍した。勿論その手段は飛行機だ。元々日本も中国相手にやってきた事だから、いじめっ子を暴力で正す事が正当化される一つの理由であっただろう。
本書後半はB-29の美しさに触れる内容になる。斯様な戦争兵器の表現として、如何にも真逆に感じる表現ではあるものの、野坂昭如の記述にある様に、「B-29を憎むべき敵ではなく、あっさり美しいと認めてしまう日本人の後進国としての劣等感
」といった、戦ってきた強いアメリカだからこそ、その国の圧倒的な技術力の賜物であるB-29を美しいと感じてしまう日本人の心内がよく分かる。もしこれが中国の飛行機や爆撃なら、当時同国に対して優位性ばかり感じていた日本人は美しいとは思えなかったに違いない。
そして機能美は、大量に殺す為に作られた機体が結果的に美しくなっていった事実と、ガラス張りのコックピット、丸みを帯びた流線型ボディかつジュラルミンで輝く美しさ、流線型を「強さ」「支配力」などのイデオロギーと結びつけていく。
日本の新幹線やF1マシンも走行時の空気抵抗を極力低くしスピードを限界まで追い求めた姿ではあるが、特にF1などは富裕層、富裕国の象徴とも直ぐに結びつく。
本書はそうした飛行機が生まれてから戦争に使われるまでの過程や、朝鮮戦争時に国内基地周辺で頻発した飛行機事故の状況、兵器として実際に使われた側のそれに対する印象などB-29を中心に多彩な内容で構成されており勉強になる。
なお現在も現役機として活躍中のF-15はあの様な小さな機体に戦略爆撃機の爆弾搭載量としてはすでにB-29を超えているとのこと。北朝鮮が最も恐れるB1B通称「死の白鳥」は比較にならない程の爆撃能力を持つ。未だ人類はその象徴に更なる強さと威厳、恐怖を追い求めている。