本著は米国大統領が就任する際に渡される中長期的に考慮すべき事項、シナリオをコンパクトに整理したもの。
米国国家情報会議という公式な諮問機関が作成している。
冒頭に立花隆が本著の読み方を紹介しているが、この部分が最も大切なところかもしれない。本著の意義を理解することも含めて。
世の中の動きがある意味で
...続きを読むここに整理されたことをベースに論じられ、決定されるている、と判断しても過言ではないかもしれない。
本著は2012年に出版されているが、同じ時期に出された英エコノミストの『2050年の世界』と併せて読み比べると、より理解が深まる。
2016年大統領選後に出版が予定される次版も待ち遠しい。
以下は幾つかの気付き。
・今後、アジアが世界を牽引していき、特に中国とインドの成長について触れているところはエコノミストの判断と重なる部分。この確実性は極めて高いといえる。
ただ、インドとパキスタン、インドと中国間の政治的、宗教的な対立のリスクをどのように織り込むのかが難しいところ。
・発展途上国で中間所得者層が拡大することは間違いない。この結果、経済は活性化するというプラス面がある一方、消費の拡大が資源不足に繋がること、中間層の発言力向上が政治的な不安をひき起こす可能性があること等、マイナス面も考慮する必要がある。
・日本が世界的にも未曾有の高齢化社会を迎え、国力が低下していくと予測されている点は、エコノミストと同様。
十分に対策が打てていない、考えられていない、ことの裏返しなのかもしれない。
・温暖化により特に懸念されるのことが氷河の消失。
例えば、アンデス山脈地域の国々では、長い乾期の間、氷河から溶け出す水が川の流れとなり、数千万人の生活を支えている。
ヒマラヤ山脈も同様。
水資源に関する紛争が懸念されている。
・米国が『世界の警察官』としての役割が果たせなくなる可能性が高く、それに代わる枠組みを考えていく必要がある。米国のGDPに占める軍事費の比率も低下トレンドになる。(アフガン、イラク戦争時7%台から現状5%程度へ低下)
・今後の世界を大きく左右するのは、『情報技術』、『機械化と生産技術』、『資源管理技術』、『医療技術』。
『資源管理技術』の中で鍵になる分野は、『遺伝子組み換え食物』、『精密農業』、『水管理』。
・米国経済の不安要素。
①医療保険
②中等教育の水準低下
③所得分配の不均衡(格差拡大)
・オルターナティブ・ワールドということで四つのシナリオで将来を予測している。
『欧米没落型』、『米中協調型』、『格差支配型』、『非政府主導型』
この中で最も楽観的と評価されつつも、世界経済に最も良好な影響を与えるのが『米中協調型』。
米国の現在の対中国の政策を見ていても、民主化政策等で厳しいスタンスであることは不変であるものの、政治、経済共にしたたかな関係が続いているのは、このような分析も背景にあるからだろうか。