歴史と映画が好きな人には面白く、また親しみの持てる本だと思う。ヒトラーおよびナチスが描かれている映像作品を、ナチスによるプロパガンダ映像も含めて時系列でその時代状況と当時の人々の受けとめ方、ナチスとヒトラーの描かれ方の変遷などをたどっている。多くの映像作品を新書という小さい枠に盛り込んでいるため、駆...続きを読むけ足的な感じもする。一方で専門の知識を基に分析をしながら、一方で著者自身が当時の人々と一緒にその映画を体験したかのような臨場感があり、要は著者が映画ファンでもあるからでしょうが、単なる教科書的な叙述にとどまらないため楽しく読める。書き出しからして、映画というフィクションの世界が現実と相補的な関係を持つことがあることを巧みに描写していて引き込まれる。「嘆きの天使」でセンセーショナルに登場したディートリッヒが「ぴっちりとしたコルセットに身を包み、自慢の足を惜しげもなくさらして彼女は歌った。
あたしが求めているのは、一人の男、ほんものの男なの
einen Mann, einen richtigen Mann
映画のヒットとともにこの歌も人びとの口にのぼるようになっていった。一九三〇年代初頭のドイツには、「ほんものの男」の出現を待ちわびる空気があった」
読み進むと、その「ほんものの男」に一時は魅了されたことをドイツ国民が認める、あるいは思い出すのに(少なくとも映像作品にあらわれるヒトラーのイメージの変化からすると)長い年月がかかったことがわかる。