キーワード集という体裁をとっているところが軽やかで良い。各論の内容は専門家には物足りないかもしれないが、あまり充実させすぎると百科事典みたいな本になってしまう。ソフトカバーで厚さ一・五センチ程度というこの親しみやすさが良い。
というのも、“はじめに”の中に「体系化したテキストをつくるには障壁にな
...続きを読むってしまうポピュラー音楽研究ならではの学際性・多様性をむしろポジティブに引き受け」とあるように、この幅広さがこの分野の楽しくも難しくもあるところなのだと思う。どんなテーマで研究する人も、この本に挙げられているどのキーワードに対しても「全く無関係」という態度ではいられないだろう。勉強することが多くて大変だ、とも言えるが、思いがけない人(の研究テーマ)と思いがけないところでつながっていることを発見しながら、クリティカル・ワードの網の目の中で自分(の研究テーマ)を位置付けていく作業は、ちょっと楽しそうだなとも思う。…同じ「楽」でも楽そうだとは決して思わないが。
ひとつだけ、ポピュラー音楽研究について「日本語で読める包括的なテキストが二〇一〇年代以降はなかなか見当たらない」とあるが、二〇〇〇年代までのおすすめ包括的テキストはこれ、というのがあるのなら書誌情報が欲しかった。二十年の間にどれくらい変わったのか気になる。