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5.0【2022年度日本経営学会賞(著書部門)本賞受賞】 戦前に大きな成功をおさめた鐘紡。戦後は衰退して最後には破綻した。本書は、膨大な社内資料や当事者の証言から、戦後の過程(プロセス)に解像度高く迫り、組織衰退のメカニズムを探求していく。そこで見えてきたのは、当事者の必死さ、誤算、恐れ、弱さ、罠に陥っていく様や、一人一人の思惑とそれらの掛け違いであった。 成功した経験をもつ組織がなぜ衰退してしまうのか、と問えば、多い答えは、成功から学習したことの慣性が、環境変化への適応を妨げるから、というものだろう。とはいえ、人は失敗から学習することもできるはずだ。環境変化に際して大きく失敗すれば、失敗から学習して新たなやり方を取り入れることもできる。だが、それがうまくいくとは限らない。つまりこの問いは、容易には答えられないし、かといって気にせずに済ますこともできない古くから人間社会にある問いであり、持続的成長が求められる今日の企業にとっても向き合うべき問いとして残されている。 成功あるいは失敗から学習するということは、組織の過去についての解釈(歴史)を当事者が活用する営みである。組織の当事者が自分たちの歴史をどのように活用してしまうことが衰退につながるのか。本書が解き明かすのは、等身大の企業人たちが歴史の活用に失敗し、それによってもたらされる組織衰退のメカニズムである。
ユーザーレビュー
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Posted by ブクログ
本書は、戦前の大企業である鐘紡の戦後の歩みを例に取り、組織衰退のメカニズムを実証的に論じたものである。唐の名君太祖李世民は臣下の諫言を積極的に聞くことで己を戒め貞観の治を実現したが、本書は今日の経営者にとって「諫言」となるものである。貞観政要と並んで経営者必読の書と言ってもよいと思う。
本書は、博士学位取得論文をもとにしているため、論文の作法に慣れていない読者は、「終章考察と含意」から読むことをオススメする。出版社は、「終章考察と含意」の内容をさらに噛み砕き、図表をさらに追加して新書として出すべきだ。それだけの価値が本書にはある。古典として読み継がれていってほしい本である。 -
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