ジョイス『ダブリナーズ』の短編を同時期に書かれた
妖精・幽霊短編作品と併読するアンソロジー。
・編訳者まえがき
一 妖精との遭遇
「取り替え子」W.B.イエイツ&T.C.クローカー
「卵の殻の醸造」T.C.クローカー
「妖精と行ってしまった子ども」J.S.レ・ファニュ
「遭遇」J.ジョイス
二 アイルランドの化け物
「ウォーリングの邪なキャプテン・ウォルショー」
J.S.レ・ファニュ
「夜の叫び」S.L.マッキントッシュ
「姉妹たち」J.ジョイス
三 心霊の力
「科学の人」J.K.ジェローム
「第一支線―信号手」C.ディケンズ
「痛ましい事件」J.ジョイス
四 底なしの愛
「キャスリーン・ニ・フーリハン」
W.B.イエイツ&グレゴリー夫人
「死んでしまった母親」J.カーティン
「エヴァリーン」J.ジョイス
五 まつろわぬ魂
「赤い部屋」H.G.ウェルズ
「ハンラハンの幻視」W.B.イエイツ
「蔦の日に委員会室で」J.ジョイス
六 霊界物質と祈禱書
「何だったんだあれは?」F.J.オブライエン
「聖マーティン祭前夜(ジョン・シーハイに
よって語られた話)」J.カーティン
「粘土」J.ジョイス
七 復活の日
「フィネガンの通夜」アイルランド民謡
「バンシー」W.B.イエイツ&J.トッド.ハンター
「いかにしてトーマス・コノリーは
バンシーと出会ったか」J.トッド.ハンター
「恩恵」J.ジョイス
八 永久の眠りを恋人に
「雪女」L.ハーン
「さざめくドレスの物語」M.L.モールズワース
「死者たち」(抄訳)J.ジョイス
・編訳者あとがき
著者と翻訳者の紹介、翻訳初出一覧、出典一覧有り。
『ダブリナーズ』・・・所謂『ダブリン市民』で知られる
ジェームス・ジョイスの短編集を核にして、その同時期である
19世紀末から20世紀初めの、主にアイルランドやイギリスの
妖精・幽霊譚や作品をテーマに沿って並べ紹介するアンソロジー。
著名な作家では、W.B.イエイツ、J.S.レ・ファニュ、
C.ディケンズ、L.ハーンの作品も含まれています。
超自然が人々に近しい時代の短編で描かれるのは、
妖精による取り替え子の悲劇。
邪悪な霊の幻影、幽霊屋敷に居る者、死者の霊魂。
不可思議な警告、愛国への献身、母の呪文、黒い恐怖。
幻視の中の彷徨える魂、霊界物質、バンシー、怪談。
紹介された妖精・幽霊短編作品は佳品揃いで、愉しめました。
ただ、併読するジョイスの作品は、各セクションとの関係が
なんとなく曖昧な感じで、編著者の試みが伝わってきません。
超自然を媒体として併読し、『ダブリナーズ』へ
向かわさせるというアイデア自体は斬新なんだけど、
『ダブリナーズ』ではその時代性の人間模様として読む方が、
良いのではないのかと・・・思ってしまいました。
それでも結構難解なんだけどね。