妻に先立たれ恋人も失った中年男が、ノルウェーのフィヨルドを辿ってひたすら歩き続ける。若い頃から何度も徒歩旅行をくり返してきた著者自身を主人公に、記憶と現在を行き来しながら文学と恋愛と歩行を語る自伝的小説。
タイトルからずっと気になってた本なんだけど、完全に同テーマのソルニットを先に読んだせいでどう
...続きを読むしても「マッチョだな〜〜〜!」と思わずにいられなかった。散歩中に見かけた高級車を買ってそのまま他国で乗り捨てた話とか、旅先でのさまざまなワンナイトの思い出とか、読んでてちょっと疲れるエピソードがハードボイルド風に語られるのだ。
なのにヘミングウェイが一度もでてこないのが不思議だった。ランボーについて語った章とかランボーよりずっとヘミングウェイ的だと思うのに。文学関係のネタはソルニットと被るものも多いが、初めて名前を聞く北欧の作家について語っているところは面白かった。オーラヴ・ニーガウという呪文のような名前の人が気になる。
私が魅力を感じたのは内容よりも文節が短くリズミカルな文体で、これはたしかに歩行のリズムを文字に移し替えるために工夫されたものだと思った。山の斜面を歩く際の呼吸のような一文の短さ。また、テーマの処理は全く異なるが、私小説的なミックスジャンルの海外文学としてはキリメン・ウリベの『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』に少し似ていると思った。でも本書のほうがずっと"おっさん"度が高い。