古代から現代にいたるまでの朝鮮思想史の全体像を、かなり分厚いとはいえ、新書一冊で概観することのできる本です。
著者は「はじめに」で、「できるだけ著者の自説を展開せず、客観的な記述を旨とした」と述べています。ただ、本書全体をつらぬくキーワードとなっている「霊性」ということばが、十分な彫琢をほどこされ
...続きを読むないままに用いられており、朝鮮思想史の客観的な全体像を知ることを妨げているようにも感じられます。とはいえ、「本書一冊を読めば、神話から現代まで、儒教や仏教から文学まで、朝鮮思想の全体をざっと見わたすことはできる」というような本は、日本だけでなく、韓国にもこれまでなかったと「あとがき」には書かれており、これから朝鮮思想史を学ぼうとするひとにとって道しるべの役割を果たす本になるのではないかと思います。
もちろんそれぞれの思想家たちの議論にかんするくわしい説明がなされているわけではないので、わたくしのような門外漢には本書を読んだだけで朝鮮思想史の内実が十分に理解できるようになるわけではありませんが、それでもおおまかに全体像を知ることができたのは事実であり、まさしくそれが著者の意図するところなのだとするならば、その意図は十分に果たされているといってよいのではないかと思います。