作品一覧
-
3.8【第35回小説すばる新人賞受賞作】 一九四一年、日本占領下の福建省廈門。 大阪松島遊廓から逃走して、上海、広州、香港と渡り歩き、廈門に辿り着いたリリーは、抗日活動家の楊に従い、カフェーで女給として働きながら諜報活動をしていた。あるとき、楊から日本軍諜報員の暗殺を指示され、その実行者として、琥珀色の瞳と蛇の刺青が印象的なヤンファという女性を紹介される。 中秋節の晩をきっかけに強くヤンファに惹かれていくリリーにとって、彼女と過ごす時間だけが生への実感を持てるひとときになっていた。 しかし、楊から秘密裏に課されていた指令は、暗殺に失敗した場合はヤンファを殺せというものだった……。 戦時下の中国・廈門を舞台に流転する女性たちの愛と葛藤を描く、圧巻の熱量を放つ第35回小説すばる新人賞受賞作。
ユーザーレビュー
-
Posted by ブクログ
今のところ今年No1。表紙や雰囲気に惹かれて購入したが非常に満足度の高い小説だった。
中国厦門でスパイ活動を行うリリーとヤンファを中心に描かれていく。掴みどころのない展開で進むが最終盤に全てが繋がる。
小説を貫くのは戦時下の「奪われた女性」たち。ヤンファを始めとする日本占領下の中国・台湾・朝鮮人の女性たちは国を奪われ、体を、人権を、全てを奪われて生きている。日本人であるリリーもまた時代に故郷、大事な人、そして体を奪われた女性。この2人が最後に本当の意味で心を通わせ邂逅する展開が美しく、温かい気持ちとなった。「奪われていったものを取り戻し〜旅があらたに始まったことを知る」非常に良い締めくくり -
Posted by ブクログ
1941年、日本占領下の福建省厦門。
リリーは日本人。日本人相手のカフェーで女給として働きながら、抗日活動家の指示により諜報活動も行っている。
ある時、指示役から日本軍諜報員の暗殺を命じられる。実行役として紹介されたのが、琥珀色の瞳で、腕には蛇の入れ墨がある楊花(ヤンファ)だった。中国・泉州出身とのことだが、神戸に住んでいたこともあるらしい。
リリーはヤンファに惹かれ、2人は濃密な夜を過ごす。
だが、実際のところ、ヤンファが暗殺に失敗したら、リリーはヤンファを殺すように命じられていた。
物語は2人の女の過去と現在を行き来する。
2人はともに、激しい荒波に揉まれてきた。
リリーは、裕福な家に生 -
Posted by ブクログ
ネタバレ第35回小説すばる新人賞受賞作。新人賞作品にしてはずいぶんこなれた筆致だし、行き届いた調査がなされていると思ったら、『遊廓のストライキ』の著者の小説だったとは。深く納得。
リリーとヤンファの過去の因縁が明かされる第4部は正直言って余計ではないかと思ったが、これはジャンルとしての作法なのかもしれない。台湾原住民出身の暗殺者の女性と家が没落したことで松島遊廓で働くことになり、そこで出会ったアナキストの「先生」の手引きで上海に渡った密偵の女性とのシスターフッドの物語。女たちの働く遊廓やカフェーに注目したことで、多様な女性たちの絆とつながりが見えてくる仕掛けになっている。日中戦争期の上海と厦門 -
Posted by ブクログ
ネタバレ感想
日中戦争の時期に運命を翻弄された二人の女性の物語。最後こそ良かったと感じたが、それまでの二人の人生を振り返って、歴史に翻弄され、理不尽に悲しい想いをしたのだ。そういう人がたくさんいるのだと感じた。
最後は予想通りというか、綺麗に収束した感じ。
あらすじ
元はお金持ちだったが、両親が亡くなり、廓に売られて、廈門に流れ着いたリリー。リリーは訳も分からず共産党の片棒担ぎをやらされ、日本軍に関する情報収集のため、ダンスホールで働かされていた。
リリーがターゲットとする岸という日本軍の大物を暗殺するために送り込まれたのが、ヤンファという女性。戦争に運命を翻弄された二人の女性が行き着く先は何処