2008年6月23日午後1時過ぎ、小名浜の漁船第58寿和丸は、2度の度重なる衝撃のあと、わずか1〜2分程度で転覆し1時間足らずで沈没した。大量の油が漂う中、3名は何とか助かったが、4名が死亡、行方不明者は13名の大惨事となった。
その後事故調査委員会によって原因調査が出されるが、救助された乗組員や
...続きを読む救助に向かった他の船員の証言とは、大きく乖離した結論であった。
しかも出された時期は、本来なら1年の間だが、3年ほど経過した東北大震災のあとで、注目を敢えて外すかのようなタイミングだった。
本書は、その調査結果に疑問を持ったジャーナリストの伊澤さんが、証言者を含めた関係者だけでなく、海難事故に詳しい人、また元自衛隊の潜水艦艦隊司令官、元外交官などから、各々の立場での意見を集め、真の原因にアプローチしたドキュメンタリーだ。
事故調査委員会の報告からは、直接の原因は大波によるもので、海に流れ出た油は少量の約15〜23L、漁具などの積み方が不適切で船体が最初から右に傾き、放水口が機能していなかったという他の要因も挙げられた。
乗組員側の主張は、波はむしろ穏やかで、大量の油が流出したのは、何かと衝突したためと考えられると言うものだった。
当初の調査担当の海難審判庁は、実際に海を熟知する船員経験者らが構成員だったが、組織統合によって船舶の運航に携わった経験のない運輸官僚たちで構成する国交省海事局が担当することになったと言う。
当初から、大きな衝撃があった直後に転覆していると言う事実から、潜水艦との衝突が可能性として出されたが、当該部署が担当になってからは、それも闇に葬られるが如く取り上げられず、出来レースのように波が原因とされる。
沈んだ船(5800mの海底に沈んだとされる)を調査して欲しいとの嘆願書が提出されたが、予算や技術的な難しさがあると、否認されている。
ちなみに事故の解析を国土交通省所管の「海上技術安全研究所」に120万円で委託しているが、17名の人が行方不明あるいは死亡ということは、一人頭にすると7万円程度。たったそれだけの調査で事故原因を片付けられているのだ。(政府は全く調査をしようとしていない)
また、「しょこたん」の愛称で知られるタレントの中川翔子が、TV番組で調査船「しんかい6500」に乗船。岩手県沖で5351mの深海まで潜水している。
伊澤さんだけでなく多くの関係者が、潜水艦の可能性(状況的に米国、しかも過去何度も隠避していることが分かっている)が高いと考えているが、外交問題になりかねない話題に対しては、運輸安全委員会という官僚組織がリスクを取るとは考えられない。そして秘密保持を盾に出しても黒塗りの議事録プリントのみ。
未だに政府・官僚の隠蔽体質は変わっていない。政治家も官僚も、かつては志を高く持った人だったに違いないのだが、その世界に入ると、人の命の大きさも考えない輩となってしまうのね。
ニッポン、本来にこの先大丈夫なのかね。
その後の震災に伴う、汚染水の問題も取り上げられているが、地域に土着することでしか生きていけない小名浜の漁師たち、彼らと同じ立場の福島の漁師たち、東北の漁師たち。
他方で、第58寿和丸の事故調査や原発事故に携わった官僚ら「国」側の人々は数年ごとに次々と異動して(昇格しながら)職責を替えていった。
「国」とはいったい誰のことなのか?
深く深く考えさせられた。