作品一覧 2015/10/30更新 幻日 試し読み フォロー TAJOMARU 完結 試し読み フォロー 蝶々さん 試し読み フォロー 夢暦 長崎奉行 試し読み フォロー 1~4件目 / 4件<<<1・・・・・・・・・>>> 市川森一の作品をすべて見る
ユーザーレビュー 蝶々さん(下) 市川森一 男性上位の維新後の世において、侍の娘として生まれ、幼いときから『葉隠』を手本として生き抜くには、相当の覚悟と強靭な意思が必要である。それを体現して見せたのは、「伊藤蝶」、通称蝶々さんその人であった。武士道という言葉を聞けば、その顛末が自刃による散華となることは容易に想像できる。本作でもその部分は、そ...続きを読むっけないほどに簡潔に書かれている。つまりは、散ることの美しさではなく、散るに至るまでの生き方や自害を判断した心の美しさを描くことが必要なのだということを、『蝶々さん』は教えてくれる。 長崎式結婚――そう呼ばれた体のいい「買春」のためのシステムは、主に結婚という手続きを重視するキリスト教が要求する規格に基づく体裁を整えるためのものであり、それを日本の武士道精神に基づいて、あくまでも「結婚」という手続きをした以上、夫の良き妻であろうとする蝶々さんのいわば大いなる「勘違い」が生んだ悲劇とまとめることはできよう。だが、蝶々さんの純情が、長崎に駐留する外国軍人たちの一時の慰安に蹂躙されたことを知るに至り、蝶々さんは「おもちゃになどなっていないことを証明」するためにおのが命を絶つ道を選ぶ。 肝心なところで運命の神が背を向け、あと少しで手が届くというところで悉く運命は蝶々さんに手のひらを返した。それでもあきらめることなく、「武士」として美しく生きるために、何度も強い心で立ち上がり、前を向く蝶々さんの強さ。これが本書の伝えたいことのすべてではないだろうか。しかし、運命の神様は、最後の最後に背を向けるのではなく、仮初(かりそ)めの幸せを蝶々さんに与えてしまう。ようやく蝶々さんが手にした幸せは、一見蝶々さんが何よりも欲しかったものに見えて、実は偽物だったのだから、これ以上の悲劇はないだろう。 本作を読むと、維新後の時代(おそらくはそれ以前から)の日本は何と女性が生きるには大変な時代で、かつ、維新前から唯一開国していた長崎という地理的条件は、蝶々さんのような悲劇を生み出す絶好の舞台だったと言わざるを得ない。社会が女性に優しくないのだから、その中で蝶々さんが武士道を胸に秘めて生きることの辛さは察するに余りある。自分の手でおのが命を殺めるという最後の選択も、それまでの蝶々さんの生き方を読んできただけに、納得してしまう。 だから、『蝶々さん』の結末はただひたすらに悲しい。その悲しさからカタルシスを得ようとするのならば、オペラ「マダム・バタフライ」のように最後の長崎式結婚を切り取るのではなく、やはり蝶々さんの生い立ちを通読する必要があるのではないだろうか。 Posted by ブクログ 蝶々さん(下) 市川森一 上巻に引き続き、一気読み。 プッチーニによって「マダムバタフライ」としてオペラ化されている、明治の長崎を舞台にした蝶々さんこと伊東蝶という1人の女性の人生を描いた作品。 蝶が学校に通っていた頃は幸せな毎日だった。 父の形見の学問のすすめを読み、ユリと仲良く、母と2人のババ様と暮らした生活がいかに恵...続きを読むまれていたかが読み進めると強く感じる。 母が将来を見据え、6年後の女学院入学を申し込みに蝶を連れて行ったのがすごい。 オランダ坂で蝶に言った言葉が印象的。この時代に生きた人としてはすごく強い女性だなー。やえさん。 母とみわババ様の死後、しまババ様の痴呆悪化後の蝶はキツい目にあいながらも大事な人たちに支えられて強く生きていく。 ユリ、サダちゃん、お絹、尹作、木原クン… その生活の中、活水に行きたいという夢を持ち、ひたすら努力し続けた蝶の姿勢が素晴らしい。結局それが叶わないのが悲しい。 フランクリンと結婚したものの、「長崎式結婚」をしたかっただけの彼とは二度と会うことのないまま蝶の人生は終わる。しかも既婚者だったフランクリン…最低やな!! 子どもを産んで待ち続けた蝶は、フランクリンの妻に子どもを引き渡し、自害して生涯を終える。 誇りを守りたいときに自害するのだという母の教え通りの自害だった。 田代先生、ユリ、2人とも死んでしまった。しまババ様も死んだ。子どもも引き取られ、夫には会えず、蝶は「誰のおもちゃでもなかったと証明したい」と言って死んでいった。 この時代・この地ならではの、悲しいお話です。 Posted by ブクログ 蝶々さん(下) 市川森一 美しいという言葉は蝶々さんのある言葉だと思う。彼女は最後まで誇りを捨てなかった。本当に武士の娘であり続けた。明治という激動の時代に飲み込まれるのではなく、しっかりと人生を歩んだと思う。私はだれのおもちゃでもないと証明する。独立した心をもつ女性であった。上巻は嫌われ松子を思い出させるような展開だったが...続きを読む、下巻は不遇ながらも強く生きる彼女に感銘した。 Posted by ブクログ 蝶々さん(上) 市川森一 市川森一は、たまたまDVDで『淋しいのはお前だけじゃない』(1982年放送のTVドラマ)を見て以来、とても気になる作家になった人で、今夜(2011年11月19日)のNHKで放送のドラマ『蝶々さん 最後の武士の娘』の原作が本書ですが、はたして時代に翻弄された薄幸の女性・蝶々夫人こと伊東蝶を、宮崎あおい...続きを読むがどう演じるのか、今からドキドキしているところです。 TVドラマ出演としては『篤姫』以来3年ぶりですが、あの時の興奮は細部にわたってすぐ思い出せると同時に、まったくあきれるほどの彼女のみごとな名演は、本筋のストーリーを満足して見ること以上に、私の眼と心にカタルシスを与えてもらったのでした。 たしかに『純情キラリ』(NHK朝ドラ・2006年)よりも、またはるかに進化(深化!)した彼女でしたが、3年という時間を経て、いったいどこまで遠く行ってしまっているのか、ワクワクしています。 先だって放送されたメイキング番組で、脚本も手がけた市川森一が、書いているときの蝶々のイメージに、宮崎あおいを抱いて、期待に胸を膨らませて大変だったと告白していました。特に、台詞がないときの無言の状態の彼女の演技は絶品で、沈黙のときに彼女のような、その人物が醸し出す具体性を創造できる俳優は、他に誰もいないみたいなことも言っていた気がしますが、これは私の思い入れが過ぎた感想なのか、今となっては定かではありません。 Posted by ブクログ 蝶々さん(下) 市川森一 p.426「私が、だれのおもちゃでもなかったという証明だけはしなければならないと」 p.442「美しく生きるために命がけになる。」 今まで時代劇を見ていても、サムライの自害をどうにも理解できんかった。 でもこれを読んで蝶々さんの生き方を知って、侍の誇りとか生きることへの意識とか、少しは納得できるか...続きを読むな。 辰さま&お絹さんのエピソードは運命的すぎて心が弾みました。 Posted by ブクログ 市川森一のレビューをもっと見る