これは面白い試み。唯一無二。
”作中作が7つ"という触れ込みばかりが耳に残っており、どんな話なのだろうと思っていたら、まさかのミステリ談義もの。
形式的には、地中海の小島にひっそりと住むグラント・マカリスターが過去一作のみ私家版として出版した『ホワイトの殺人事件集』を、正式に出版したいと一人の編
...続きを読む集者ジュリア・ハートがグラントのもとを訪れ、そこに編纂された7つの短編を読み返しながら、1作ごとにその作品の意義を対話していくというもの。
その対話で繰り広げられるミステリ論が、グラントの言うところの”殺人ミステリ”の構成条件とでも言うべきもので大変に興味深い。
登場人物を被害者、容疑者、探偵、犯人のグループに定義し、集合論を用いて数学的に分解する。
作中作として提示されるのは、その構成が極端な例を主としており、登場人物=容疑者が2人で犯人が1人の場合(どちらかが犯人。お互いはどちらが犯人かわかっている。知らぬは読者ばかり。)、容疑者グループと犯人が完全に重なる場合(そう、あの急行列車パターン!)、容疑者グループと被害者が完全に重なる場合(こちらはあの島の事件パターン)、などなど。
そして、ミステリ構成談義が縦糸ならば横糸としてあるのが、グラントとジュリアの現実世界で起きたとされる”ホワイト殺人事件”。
タイトルまでも似通っている『ホワイトの殺人事件集』に編纂されている7作にはこの事件を想起させる、偶然とは思えない記述が散りばめられている。
グラントは”ホワイト殺人事件”と関わりがあるのか!?
この作品は2022年度、このミス海外部門10位。
1位は『ヨルガオ殺人事件』、8位に『木曜殺人クラブ』のクラシックミステリオマージュ作品が。
また、2位に『自由研究には向かない殺人』、7位には『彼と彼女の衝撃の衝撃の瞬間』と豊作の年の年度ゆえ、このポジションに甘んじているが、ポテンシャルはもっと上。
クリスティーオマージュを含みながらも、リバイバルのベクトルとは一線を画す試みにただただ脱帽の一冊。