ミクロとマクロの両視点からアメリカ大統領選を感じられる良書。
東大名誉教授の久保文明氏と『ルポ トランプ王国』の金成隆一氏の共著。とはいえ久保教授の担当部分は第1章1,2部と終章のみと限られ、金成氏の文章がメインとなる。
久保教授執筆部分の中では、政党政治の歴史についての記述がかなり興味深かった。
...続きを読むアメリカの2大政党制は「決定的選挙」を契機に両党の力関係や支持者層を大きく変えてきたのだとか。
3代ジェファソンの当選によりリパブリカンが隆盛し、南部の対抗勢力は7代ジャクソンを旗頭として民主党を結成した。そして16代リンカンの当選で共和党の成立が決定づけられ、現在の2大政党制が完成した。25代マッキンリーの当選によって共和党は全盛期を迎え、T.ローズヴェルト、ハーディング、クーリッジ、フーヴァーと共和党政権の時代が続く。しかし32代F.ローズヴェルトの当選を機に民主党は「大きな政府」に舵を切り、37代ニクソンが共和党から当選するまでは民主党の時代が続いた。
どれも高校世界史の授業でも習う内容ではあるが、2大政党制の観点から捉えることで各党のイデオロギーの変遷や国際政治との関連について理解が深まった。アメリカ政治史についてはいずれもう少し詳しい本も読んでみたい。
金成氏の執筆部分のうち、2章と3章は2016年アメリカ大統領選挙の予備選と本選のルポルタージュ。『トランプ王国』ほか金成氏の既刊との重複は定かでないが、個人的には面白くサクサク読めた。
支持者へのインタビューや党員集会の取材を通して分かる、アメリカ人の候補者の選び方が印象深かった。たまたま見た討論会の内容が気に入ったから、というように選んだ理由は必ずしも説得的なものではないが、それを堂々と自分の意見として主張する強さは日本に欠けているものだろう。
4章はよりマクロな視点からの大統領選の分析。
「リベラル」概念のアメリカでの変遷とヨーロッパとのズレについては今まできちんと理解できていなかったところ、わかりやすく説明がされており勉強になった。
ヨーロッパでは元々、体制からの自由を求める立場を言葉通り「リベラル」と読んでいたところ、アメリカではF.ローズヴェルトが自身の福祉主義を「リベラル」と呼び始めた。これに対してレーガンがヨーロッパ的な語法で「新自由主義(ネオ・リベラル)」を掲げたため、アメリカのみならず日本でも「リベラル」が保守と革新両方の意味を持つに至ったそう。