専門学校時代、短文を書く練習をした。お手本は朝日新聞朝刊コラム
「天声人語」だ。まずは毎日、書き写すところから始めた。今でも
休刊日以外の毎日、書き写している。それで文章が上達したかと聞か
れれば、はなはだ怪しい。
文章を書くことを仕事にしていた時期がある。長い文章を書くのは
簡単なのだ
...続きを読む。形容詞を多用し、だらだらと書いて行けばいくらでも
行数が稼げる。
だが、過不足なく短文で要所を抑えた文章を書くのには難儀する。
今でも苦手だ。実は本の読後感も「1000文字以内」という目標を
設定しているのだが、なかなか目標通りには行かない。
「天声人語」には歴代の書き手がいる。なかでも稀代の名文家で
あり、46歳の若さで亡くなった深代惇郎は私の短文の神様である。
本書は深代の同期であり、後を継いで「天声人語」を担当した辰濃
和男の編集になる深代天声人語のベスト版である。
やはり打ちのめされるのだ。文章の巧みさだけではない。広範な
知識や教養の深さが、嫌味なく感じ取れるところに「いくら勉強
してもこの人のような文章は書けない」と思い知らされる。
深代も新聞記者である。しかし、大上段に構えた文章ではないのだ。
深代本人が「民の言葉を天の声とせよ」と書いた通りに、権力を批判
する文章は、読み手側の視点に立っていることが多い。
ベスト版とののことで年代順ではなくテーマ別の編集になっている
ところは少々いただけないが、深代惇郎が生きて書いた時代に間に
合わなかった世代でもその文章を味わえ、打ちのめされることが
出来ることに感謝する。
あと2冊。「続」と「最後の」が文庫で発行されており手元にあるの
だが、一気に読んでしまうと楽しみがなくなってしまう。2冊はもう
少し後に取っておこう。