・星新一的SF世界観と小川洋子的な静けさが同居した、読んでいて非常に心地の良い短編集であった。
・架空の舞台を用意することで、現実世界を舞台にしていては表現することができないもの、もしくは表現することが許されないものを描き出すことができるというのがSFの特徴であり、強みである。しかしその特徴ゆえに
...続きを読むSF小説は私にとってあまりに強すぎるメッセージ性をはらんでいることがあり、私はSF小説というだけである程度身構えてしまう。しかしこの小説は私の先入観を良い意味で裏切ってくれた。
著者チョン・ソヨンは、誰もが持ちうる、私達を取り囲む世界に対する希望や絶望といったようなものを寄り添う筆致で描いている。SFにしないと描く事ができなかったのではなく、偶然彼女にとってのキャンパスがSFであったということなのであろう。
・各ストーリーの舞台装置は現実離れしたSFそのものであるが、具体的な場面場面は私達の生きる日常から遠く離れることはない描写であり、状況が自然とイメージされるように設計されている。自然と彼女の世界に入り込んでいく事ができるのである。この点もこの小説の魅力の一つであると思う。
・特に「アリスとのティータイム」というタイトルが好きでした。