人生の最終段階の医療やケアの役割を論じた書籍。第6章「事前指示からアドバンス・ケア・プランニングへ」ではAdvance Care Planning; ACPを取り上げる。
ACPは患者本人が主体的に医療やケアを選択するための制度である。ところが、日本では最後をコントロールする権利ではなく、義務にな
...続きを読むってしまう危険がある。選択肢を提示して、それらのメリット・デメリットを提示し、一番良いものを選択してもらうのではなく、他人に負担のない唯一の選択肢を自分で選ばせる制度として利用される。
アリバイ作りのために本人の同意を得るだけである。これは日本の公務員に共通する体質である。相手の意思が自分の要望と合致する場合にだけ自己決定と飛びつく傾向がある。公務員組織は申請主義になっており、申請した人しか権利を認めない。それどころか特別定額給付金では申請書の目立つ場所に「申請しない」チェック欄を設けて、誤記載を誘うようなことまでしている。
極めつけは警察である。アメリカなど海外のドラマでは警察官が被疑者に「You have the right to remain silent.」と伝える。しかし、日本は日本国憲法第38条第1項で「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定めながら、当人が積極的に権利を主張しなければ権利を行使しないものと扱うと警察側が都合よく解釈する。日本社会全体が真の意味で自己決定権の尊重を考える必要がある。
第9章「尊厳死・安楽死問題とは何」は尊厳死の用語の混乱を整理する。尊厳死は元々、延命治療を終了し自然死させることを意味していた。米国では1990年代に致死薬によって生命を終わらせることを尊厳ある死と主張する立場が出てきた。これを積極的尊厳死、従来の尊厳死を消極的尊厳死とする分類が生じた。
しかし、消極的と言っても何もしない訳ではない。延命治療をしない、中止するという意思決定がある。消極的と名付けることで許容されるイメージが生じする。「延命医療の差し控えと終了」「延命医療を行わないこと」と呼ぶことが実態に即している。