サイコパスは劇場版未見(一作目はDVDで視聴)で本編視聴済み。ノベライズを手がける吉上さんのファンなので既読。
狡噛の魂の遍歴が綴られた読み応えある一冊。今回は共著ということだが、文体は吉上亮の色が強い。
チベットの習俗やオリエンタルな文化、猥雑な市場の活況、小仏塔や寺院、五色旗が翻る光景が巧みな筆
...続きを読む致で描写され異国情緒満載。登場人物の心情も過不足なく掘り下げられて入っていきやすい。
ゲリラに殺された家族の復讐を目的に、狡噛に弟子入り志願する少女・テンジンの天真爛漫な朗らかさも可愛らしい。恋愛感情ではなく師弟愛、もしくは疑似家族に近い間柄。
劇場版を見てないと三期で唐突に出てきたフレデリカに「誰?」と戸惑うが、こちらを読めば狡噛をスカウトした経緯がわかる。
菊池寛の名作「恩讐の彼方に」の文庫本が印象的なキーアイテムとして使われており、紙の本を読めよ……とあの人の声が聞こえてくる。イマジナリーマキシマンと狡噛の会話は情感たっぷり。
正直劇場版を飛ばし三期を見ると、狡噛の心境の変化に困惑する。
劇場版一作目の素振りだと日本に帰ってきそうになかったのに、数年越しの心変わりの理由は……と怪しんだが、本書は狡噛の心情を丁寧に追っており、「復讐に何の意味もない」「必要としてくれる人たちに背を向けた」彼の虚無感や後悔の念が静かに迫る。
狡噛が帰国を決断した理由が、現地の人々との交流を通し説得力をもって補完されているので、より三期に入っていきやすい。というか、狡噛の母親ってまだ存命だったのか……とっくに他界したものと。様子を見に行ってる朱にほのぼのする。
心理描写も秀逸だが、戦闘シーンも文句なくカッコよく、センチメンタルな部分とハードボイルドな部分のバランスがよくとれている。
映画やアニメではモノローグとして語られない限り知り得ない細かな心の動きも拾っており、普段は内に秘めている彼の弱さや繊細、終わりない旅に倦み果てた孤独感が、人間臭い魅力として上乗せされる。狡噛の手料理、私も食いたい。
狡噛ファンなら自信をもってお勧めしたい。