国連の世界幸福度ランキング(2020年)によると、日本は156カ国中62位、年々下がり続けている。この調査では幸福度をGDPなど客観的な指標と主観的な自己評価で測定しており、ランキングの妥当性はよく分からないが、少なくとも日本人は他国より幸せを感じていないらしい…
にも関わらず、日本ではセラピーや
...続きを読むカウンセリングの類を受診することがあまり一般的でない、むしろネガティブなイメージもあるかも知れない。なので本書の著者アルバート・エリスが、世界三大心理療法家の一人と言われても、全然聞き覚えがなく、もちろん他の2名が誰かも知らない。
本書は、そんな心理療法に馴染みのない一般の人でも成果が出るように、幸せに生きるための技術として、論理療法について具体的・実践的に解説したものである。
人生において失敗しないことはないし、逆境、災難に直面することもある。その都度、打ちひしがれ、活力を失ってしまうと、現状を改善したり再起したりできず、不幸な状態であり続けることになる。少し前にレジリエンスというコトバが流行ったが、本書が説くのは、心理的レジリエンスを身につけることとも言える。
心の活力に関しては多くの理論や手法があり、本書でもポジティブ思考、グループ療法、信仰などが解説されている。実際に効果がある人もいるだろう。だが論理療法の立場からは、これらは危険性があると断じる。例えば、極端なポジティブ思考は、楽観的な未来を志向して元気になるかもしれないが、楽観的なだけで努力しなければ実現しないし、外的要因で実現不可能になったとき、心理的ダメージを受ける恐れがある。その他の手法も同じように、要は幸せを他に帰着すると、それが得られなかった時の心理的対応を間違えるとダメージがある、ということである。
論理療法では、どんな状況でも自分には幸せになる力があると考える。つまりは自分自身の考え方を変えるのだが、よくある心理療法と違って正しい考え方を規定しない。そうではなく自分の考えを批判的に捉える考え方を提供する。例えば、大切な舞台(プレゼンでも試験でも)で失敗したとき「もう終わりだ」と考えてしまうとする。その考えに対して、本当に終わりだろうか、これから一生幸せになれないだろうか、百歩譲ってこの目標は達成できないとしても、他に良い目標がないと言い切れるか、など、絶望的になる考えを一つ一つ論駁するのである。
他の多くのセラピーは、ありのままの自分を認めなさい、とか楽観的に捉えなさいとか、状況の認知をアドバイスするのに対し、論理療法では認知の仕方を認知する、いわばメタ認知である。この療法の結果として、ポジティブ心理学、アドラー心理学、選択理論などに近い考え方に至ることが多いが、本書を読む限り、全ての場合に当てはまる万能な考え方はなさそうである。そうではなく、自身の批判的思考を頼りに、現状を受け入れ、かつあきらめず、喜びを見つけて行動し続ける心理的スタミナが大切…本書はそういうマッチョな本である。