2010年から2018年に渡って計9回行われた羽生先生のインタビューと、渡辺棋王や谷川永世名人などのインタビューをまとめた本。
羽生先生の本は、全部とは言わないまでもほとんど読んでるけど、この本は本当に読んでよかったと思いました。
長期間にわたってインタビューされているので、その間に羽生先生の
...続きを読む中で変わった考え方、変わらないものなどを追うことができます。
羽生先生著の決断力や大局観なども佳作だけど、昔はこう思ったけど今はこう思ってるなどがわかるので、どの年代の人にも参考になるのではないかと思います。
特に印象深かったのは2点。
まず、最初のインタビューが終わったとき、同席していた人は著者のインタビューの技術を褒めますが、著者はある種の敗北感を感じます。
「羽生先生は、あらゆる質問にあらかじめ答えを用意して、本音で語っていないのではないか?」
実は僕も1章のインタビューを読んだとき、面白いんだけど今まで読んだ内容と変わらないなと少しがっかりし始めていました。
そんな時に、この著書のズバリ僕の気持ちを代弁してくれるような反省文。ここから著者は羽生先生の本音を引き出そうと奮闘します。
テニスのロジャー・フェデラーもそうだけど、今のトップ選手は、良くいえば紳士的な、悪くいえば当たり障りのない回答が求められ、なかなか本音で語ってくれることはありません。
もちろん、昔のように「あいつは嫌いだ」「俺が一番だ」と感情的な本音は論外だけど、トップの人が本当は他の人をどのように評価し、どのような目標を持ってその競技を行っているか、一般人には理解できないにしても、言葉や文章として残して欲しいと思うことがあります。
はじめの数年は、羽生先生独特の笑いや冗談を含めた会話が多いんですが、著者の努力もあり、後半になるにつれ、羽生先生が真剣に考えて答えるシーンが多くなって行くのが面白い。
2つ目は、いつも朗らかな羽生先生が見せた、孤高の世界。
羽生先生が、相手の得意な戦型でわざと勝負するというのは有名な話しですが、これは「目先の勝利より、未来の可能性を広げる」ためと一言で伝わることが多い。
しかし実際は、相手の得意戦法で戦い、それでその戦法のことがわかっても、それを活かそうと思った時にはもうその戦法は時代遅れになっているということもある。
つまり、目先の勝利より未来の可能性をとったのに、その未来に可能性が残っていないので、投資に対する回収もできないということがあるということです。
ここで、著者は「それでもリスクを取るのは、将棋の幅を広げて強くなるためですよね?」と聞いたときの回答が、本書で一番衝撃的な言葉でした。
「もう、強くなっているかどうかもわからなくなっている」。
僕程度のレベルであれば、詰将棋をしたり、定跡を覚えれば確実に強くなるというのはわかります。
しかし、当然、歴史上羽生先生より将棋を深く知っている人はいないわけで、何をしたら強くなるかなんて当然わからないし、下手をすると、いまやってることで弱くなっている可能性すらある。
それでもなんらかの勉強をし続けないといけない。
想像しただけでゾッとしました。
どの分野の人でも、道を極めようと思っている人はぜひ手にとってみて欲しい本です。