著者であるアンソニー・トゥー氏と中川智正元死刑囚との面会及びメールでのやり取りの記録と、そこから見えるオウム真理教幹部の役割や、サリンやVXなどの化学兵器、ボツリヌス菌や炭疽菌などの生物兵器開発の過程をまとめたもの。
死刑囚との対話の過程(手続き的なものを含めて)や確定死刑囚の処遇等々からして初め
...続きを読むて知ることが多かった。また、中川氏の人となりについても、初めて触れる部分が多かった。ここまで情報交換をし、その上で一連の事件の考察ができたのは、著者が中川氏を一人の人間、もしくは科学者として敬意を払い、関係を丁寧に構築したこと、その信頼に中川氏が応えてきたことが大きいように思う。
最終章「中川氏最後のアクティビティ」では、昨年の金正男氏暗殺事件に関する論文執筆や発表について述べられている。25人の殺害に関与した(確定判決による)彼の罪は到底許されるものではないが、最後に論文という形で残したのは、一人の科学者として大きな意味を持つのではないかと思う。中川氏が願ったように、化学の知見を悪用して大きな過ちを犯す人が出ないよう、後世に語り継いでいきたい。