「野口修を書くということは、野口家について書くということです。そこに触れないと意味がない。あなたは、そのことをわかっていますか」
「野口家というのは特殊な家なんです。古い関係者でも、その背景についてはあまり知らないし、知ろうとしない。蓋をしているものを開けることになりかねないから。いろんなものが出
...続きを読むてしまいかねないから。あなたは、そのことを判った上で取材をしていますか」
作家の安部譲二を自宅に訪ねた際、開口一番迫られたという。
「喉元に刃物を突きつけられた気がした」と筆者は述懐する。
その緊張感の中、そして、出版元が決まらない中、取材は10年の時を重ねる。
執筆途中からは、水道橋博士の「メルマ旬報」での掲載もなされた。
野口本人に、何度も取材をした。
武勇伝から語りたくない歴史まで、筆者は鋭く切り込んだ。
独特のしぐさでたばこももみ消す野口の姿に、昭和のあの大ヒット曲が重なっていく。
キックボクシングを創設。
「真空飛び膝蹴り」「キックの鬼」沢村忠の「日本プロスポーツ大賞」。
芸能界にも進出し、国民的歌手・五木ひろしは「日本レコード大賞」を獲得。
そのプロデュースを担った歴史上の人物。
だが、その実像は知られない、語られないままになっている。
野口本人への評価も、人によって180度違う。
関係する人々を訪ねて、日本全国を歩きに歩いた。その旅はバンコクにまでもたどり着いた。
現存する膨大な資料を、執念で追いかけていく。
そして、一つひとつの事実を確認しながら、歴史の真実へと迫っていく。
野口本人と、昭和の日本の語られなかった実像が次々と明らかになっていく。
著者の覚悟と執念に脱帽する。
野口修の評伝にして、筆者・細田昌志の情熱の旅路に同行できる渾身のノンフィクション。