経産省で地域政策に携わった経験を持つ著者による、世界で活躍する中小企業の話。日本各地に「小さな世界企業」が存在するが、それら企業の紹介と分類、今後の展望について学術的に述べている。説得力があり面白い。
「(製品差別化)安くて品質もほどほどの普及品に飽き足らない消費者に、個々のニーズに対応した製品を
...続きを読む供給することによって、高くても手に入れたいと思わせる方法である(1つのキーポイント)」p20
「火薬や化学製品の大手ダイセルは、1919年に8社のセルロイドメーカーが合併してできた大日本セルロイドに起源をもつ。タバコのフィルターは味の決め手になると言われ、メーカー、ブランド毎に繊維の細さ、編み方などが微妙に異なっている。ダイセルは、世界のタバコメーカーからフィルター製造をまかされている」p41
「(市場ニーズ把握の重要性)自社の保有する技術を使って何かできないか、という発想で製品開発を行っている企業が多いが、こういった技術シーズから発想した製品開発は、ほとんどの場合、市場の壁にぶつかる」p53
「外国人ユーザーは、Q(品質)C(価格)D(デリバリー)を守れば、企業の販売実績や規模などに頓着しないという傾向が強い。一方、日本の大企業の場合、不良の発生を恐れたり社内決裁が得られにくいと考えたりして、どこの馬の骨とも分からない中小企業との取引に消極的になりやすい」p54
「(売れる製品開発に成功する条件)自社だけでは足りない技術を外部から調達する能力。優れたニッチトップ型企業は自社の保有するネットワークを駆使して、パートナー探しをする。まず、これまでの取引などを通じて関係を築いた他の企業を頼りにする」p57
「(日特エンジニアリング)(コイルの)市場シェア40%で売上高は220億円ということは、世界の巻線機の需要は多く見積もっても550億円にすぎない。ニッチトップ製品の市場イメージの典型と言える。必需品ながら市場が小さい。今後とも絶対に市場はなくならないが、大手企業の参入意欲は低い。こういう市場こそ、中堅中小企業に適している」p62
「大企業は市場規模が一定以上の製品しか生産せず、同業他社と苛烈なコスト競争をしている。ベルニクスは、他社が見向きもしない特注品にも対応し、受注する最少見込み市場規模は数千万円だという。こうした仕事に大企業は絶対に手を出さず、典型的なニッチ市場となる」p77
「航空機は自動車に比べて極めて高い安全性を求められ、部品にはより精度、耐久性、信頼性が要求される。その分、高い技術とコストが必要となる。品質保証のための国際認証も取得する必要がある。これらはすべて参入障壁として働く。航空機部品は、参入障壁の極めて高い典型的分野だ」p87
「優秀な学生ほど大企業志向が強い。このため、大組織が人材を囲い込み、組織外に有能な人材のプールができにくい。人材が放出されるのは、大規模なリストラで早期退職が募られるような特別な場合である。放出された人材も社会としての受け皿が十分でなく、有効活用がなされているとは言いがたい」p209
「日本人には発想しにくい斬新なアイデアを、外国人は提供してくれる。世界の需要を取り込む工夫として外国企業を巻き込むことは、不可欠な課題となる」p221
「(地域に不可欠な企業)地域の外から受注し、地域の中にいる企業に発注する企業。受発注のネットワークで、地域内の企業と地域外の企業を結びつける結節点に位置する企業である」p243