矢口高雄氏逝去後すぐにタイムリーに刊行されたジャーナリストによるドキュメンタリーだが、取材期間は5年以上と長く付け焼刃的な内容ではなく濃くしっかりとした評伝だった。
もともと私は「マタギ」のファンで1970年代に購入してからずっと大切に今も愛読書として持っている。
矢口氏逝去後、「僕の蛍雪時代」「奥
...続きを読むの細道」ほか「ボクの先生は山と川」など自伝エッセイや自伝漫画をいくつか読ませてもらった。
時代と境遇と自分の人生にまっすぐに向き合った人だったという印象。子供時代は貧しい農家で自然と農業と向き合い、学生生活は遠路を通学しながらクラブ活動に勉学にいそしみ、銀行員になってからは行員として一生懸命働き、転じてからも漫画家として精進しつづけ、漫画文化の保存発展にも最後まで尽くした。ひとつひとつの人生を一生懸命に丁寧に生きてきたひとだからこそ次の人生の転機にステップアップできたのだと思う。一本筋の通った人生を歩まれた方。
自分の人生と照らしてみて、自分はその時その時を真剣に生きてきただろうかと反芻すると矢口氏ほど真剣に生きてはこなかった気がする。自分の人生はあきらめることが多すぎた気が。
どの漫画家さんに言わせても「自然描写が素晴らしい」。
私も同感だ。秋田の田舎で自然と対峙しながら生きてきたひとでなければ描けない自然がそこにあり都会生まれ都会育ちの私ではとうてい描けない世界が矢口高雄作品の魅力の源泉だと思う。
ガロの長井さんに「絵がヘタ」と言われたのは意外。基本的に絵がうまい人だと思うのだが?
気づいたときは少年マガジンで「釣りキチ三平」を描かれていたのでガロ出身の漫画家さんとは知らず。でも「マタギ」は確かにガロ的かも。
この方の人生のキーマンとしてお母様(アバ)と奥様の存在が大きい。奥様の語る矢口高雄伝も読みたいものだ。どこかの出版社さん企画してくれないかな?
満足度★★★★