相変わらずほろ苦いけれど爽やかな物語だ。お父さんとミランダのくだりは少し冗長だったかなと感じたが、読んで数日経つと、あとからじわじわ旨みのようなものが湧き上がってくる。
この人とはお互いに深いところで分かり合える、と思える相手とはいつ出会えるんだろうか。出会えたとしても、人生を共にすることは出来るん
...続きを読むだろうか。
自分は昔、自分の価値観とこの人の価値観は同じだ!とびびっとくる人に出会ったことが一度あるけれど、片想いで終わってしまった。相手も少なからずそう感じていたんじゃ?とも思ったけれど、自分にすでに相手がいたのでどうしようもなかった。
前作で、エリオがオリヴァーに会いに行く前に、エリオが出会っていたミシェルという存在。普通の恋愛小説だと、当て馬的な登場人物になってしまうのに、そうはさせないミシェルの背景描写に唸った。そして、エリオとの年齢差から、ともすれば父性的なものが大きくなりそうなのに、恋人としてのエロスがしっかりあり、エリオに彼が忘れていた情熱を思い出させるきっかけになる。ミシェルがしっかりした恋人として描かれているからこそ、そこからオリヴァーに帰ることに、説得力が出てくる。つまり、エリオにとっての唯一はオリヴァーだったということに。
この小説に出てくる人物たちは、世間の夫婦とは恋人とはどうあるべきかということに悩みはするけれど、それでも自分の欲望に素直に従い、自分にとっての唯一を求めていく。
しかし、その唯一と出会ってさらに人生を共にするには、きっとそれを探す時間や、唯一とずっと共にあるために経験値を積まないといけないのだ。だから、エリオの父親もミランダに出会うのに時間がかかったし、エリオとオリヴァーも結局20年もかけなきゃいけなかった。
この物語のいいところは、唯一に出会うまでの時間を、全肯定も全否定もしないところだ。ただ、そうあった自分、無色だけれどその時間を過ごした自分達がいると描写する。
この空白の時間があるから、2人の関係性を殊更素直に受け取ることができる。自分が生きるこの世界でも、こんなふうに自分の魂と呼応する相手が見つかるのかもしれないと、希望を抱かせてくれるのだ。
今の自分、夫と子供のいる自分も、素敵だと思う。でも今後数十年経ったときに、もしかしたらびびっと来る人にまた出会えるんだろうか?それはそれで素敵な話だと思うし、生きるのが楽しくなってくる。