「吸血鬼カーミラ」を書いた作家レ・ファニュの短編集。
「吸血鬼カーミラ」をはじめ、この作家の作品を読んだことがないのではじめて読むには短編は入りやすい。
五篇の作品のうち表題作「ドラゴン・ヴォランの部屋」はやや長めの作品で、それ以外は極短い作品だった。
多くの作品は、怪奇や幻想的といった表現の似
...続きを読む合う作品で、謎めいている。
幽霊なのか何かよくわからないものによって、翻弄されたり生命を落としたりする。ヨーロッパという長い歴史のある地域だからこそ漂う雰囲気があり、物語を効果的に彩っている。
明らかに恐ろしいものに対して恐怖に震えるという直截なものではなく、心にジワリと染みる見えない何かよくわからないものに対する恐ろしさ、心細さという作品は、日本人には馴染みやすいのではないだろうか。
古い建物の使われない暗い部屋だとか、壁に浮き出る不気味なシミ、風で建物が軋んだり扉が不意に開いたり、こういう実際には怖くもなんともない経年劣化や建物の構造上の問題だったりが恐怖を煽る。なんかよくわからないけど怖い、というヤツだ。
ドラゴン・ヴォランの部屋
パリに向かう英国人青年の身に起きた出来事を語る形の物語。
偶然出会った美しい伯爵夫人に心惹かれた青年は、夫人と近づきたいがために同じ宿に泊まる。そこで人違いされたことをきっかけに親切な侯爵と知り合う。侯爵の計らいで仮面舞踏会に出向いた青年は、そこで中国風の預言者から伯爵夫人が自分を想っていることを聞かされ歓喜する。
この作品だけが本書の中では唯一、幽霊や怪奇といったものではなくサスペンスやミステリーといった趣になっている。
わたしはこちらが一番面白く、映画などにしても見応え十分になりそうだと思った。
英国人青年と伯爵夫人の秘めた恋物語のように見せかけて、おかしなことに巻き込まれていっていることが読者にも予想出来るため先が気になってしまう。
英国人青年が語っているわけなので、最悪の事態にはなっていないこと、登場人物が多くないので、何が誰によって起きるのかも推測出来てしまうのだが、それでも愉しめる。
どの作品も面白く読めたため、次は有名な「吸血鬼カーミラ」を読んでみたい。