「目的の力」Victor J. Strecher
生きる目的を強く持っている人はそれが薄弱な人よりも平均して長生きする。生きる目的が1-7点のスケールで1点上がっただけでも死亡リスクが12%減る。心臓発作を起こすリスクは27%下がり、脳卒中のリスクが22%下がる。
生きる目的が薄弱な高齢者は強固な高齢者に比してアルツハイマー病が2.4倍も上がる。また、強固な人が例え発症しても病状の進行が遅い。
生きる目的が明確にある人は、平均してない人よりも、心理的、社交的に上手くやれている。性生活も良好でよく眠れ、うつも少なくリラックスしている。
アリストテレスの結論は、人間活動の究極の目的は「幸福(ユーダイモニア)」であるという。
人はみな内なるダイモン(真の、もっとも神聖な)を持っており、そのダイモンと調和した生き方をしなくてはならない。エゴイスティックな欲求を超越した真の自己。
ユーダイモニアによる自己超越の状態から得られる幸せは、自己高揚的なヘドニアの対極にある。
ヘドニズムとは、短期的な欲求を満足させる事から得られる快楽の追求を指す。
我々は「今話題の危機」について会話するという野次馬根性のせいで、自分自身を注意深く吟味する事から遠ざかる。
ヘドニアとユーダイモニアは関連しあっている。
ヘドニアの高い人は炎症性遺伝子の発現が高まり、ユーダイモニアの高い人は低くなる。ユーダイモニアが高い人の方が生理学的に健康。
人が能動的な選択を行う事を行為主体性(エージェンシー)と言う。
ヘドニアを求めてそれを得た若者が不安感や病気の症状を多く伝えてきたのに対し、ユーダイモニアを得た若者は生きる満足感や高い自己評価、ポジティブな感情を多く伝えた。
ユーダイモニアを求める学生は職業的な成功も含め、長期的に見てより幸せになる事が多い。短期的に見ても、ただ成績の為に勉強するのではなく、授業の内容をきちんと理解しようとし、教材全てに習熟する事に関心を持つ。
人は脳の最もよく使われるところに酸素を送り込もうとする。ヘドニアに傾く時は、酸素の入った血液が腹側線条体という報酬系を司る脳の奥の場所に流れ込む。
ユーダイモニアとヘドニアによる報酬への神経反応は違う。つまり両者の幸せ感は違っている。
アリストテレスという名前には「最高の目的」という意味がある。
生きる「目的」と「意味」は違う。「意味」は「なぜ私はここにいるのか?」という問いの答えであり、大きな個人差があるが、「目的」は最も深い価値を見出すものとして普遍している。
目的のある人生とは、人が最も大事なものの為に生きているかが鍵になる。
普通のコーチは結果を出す為の知識やスキルを教える。偉大なコーチは「なぜ?」を見つけられる手助けをする。
生徒が成績だけに関心を向けるほど成績は下がる。目的意識を持ちながら教材全体に習熟しようとしていると成績は上がる。
仕事の忌避を最小限にするには、組織の目的にフォーカスするのがベスト。
ただ報酬の為に働くのではなく、仕事を工夫し、より超越的なものにする事をジョブクラフティングと言う。
震災をそこから逃れるべきものとしてではなく、正面から向き合うべき試練として見る事は、心的外傷後成長を促し、クオリティオブライフを高める。
恐れるのをやめ、本来の自分自身であろうとした時、回復力は働き始める。
ある人の世界を粉々にするようなショッキングな出来事は、その人の世界に対する認識を見直す事に繋がる。
全世界で行なった「生きる目的について考えるか?」の問いに対して最も肯定的な答えが多かったのは、コロンビア、ガーナ、インドネシア、ルワンダ等、最貧国とされる国であった。目的のある人生は、社会的経済的な地位とは関係なく、あらゆる人のものである。
震災の後、自分の信念を根本から見直そうとする人々にはポジティブな「こじ開け」の効果が見られる。エゴをこじ開け、本当の自分を見出す。
ニュートンをはじめとする17世紀の王立協会の科学者達は「哲学者」と呼ばれていた。この言葉は「英知を愛する者」という意味であり、星占いや手相見、魔女を火にかける者という意味ではない。大きな問いかけを発する事を恐れない者である。
自己を超えた強固な生きる目的は、健康とウェルビーイングをもたらし、病気や死から守ってくれる。
目的とは、深い価値を持った高レベルの目標である。
重要なのは目的を形作っている価値が何であるか。
強固で超越的な生きる目的は変化を嫌う姿勢を弱める。
目的のある人生とは、エネルギーと意志力を要する動的な過程である。
エネルギーと意志力を高める5つのポジティブな習慣的行動とは、睡眠、プレゼンス、運動、創造性、食べる事である。SPACE。
目的のある人生は裕福な人の高レベルな願望ではなく、万人のものである。
自己超越的な目的の対極にあるのがナルシシスム(自分の事に過剰な関心を持つ)とニヒリズム(生きる目的などないという信念)。今、この二つが急速に高まっている。
1966年、アメリカの大学一年生を対象に行った調査では、経済的に豊かである事が重要と答えたのは42%。生きる為の哲学を持つ事が重要と答えたのは86%。ところが2005年になるとこの数字がほぼ逆転した。実存から物質への移行が、社会への不満の大きな根源となっている。