日本のアニメ・マンガオタクのフランス人自称第一世代の著者が語る、フランスにおける日本アニメ・マンガ興隆史(ゲームも)とそこから発展した日仏比較文化論です。
1978年夏にフランスのテレビ番組『レクレ・ア・ドゥ』で放送された『UFOロボ グレンダイザー』が日本アニメ浸透の引き金になったとは意外な話でした。自分も小学生の頃に観ていた記憶があります。確か『マジンガーZ』シリーズなんですよね。しかし、ちょっとこれまでのマジンガーとは毛色が違っていて、兜甲児(声:石丸博也)も登場するのですが、これがまた脇役になっていてマジンガーZにも乗らないんですよね。子どもながらにこれには違和感があったことを憶えています。
どちらかというとマイナーなアニメだったと思うのですが、なぜかこれがフランス人の子どもにウケてしまった!『レクレ・ア・ドゥ』の当時の子ども視聴率は100%だと言われたそうで、場所も変わればわからないものですね。(笑)
日本のアニメがフランスの子どもたちにウケた著者の見解としては、様々な偶然や創造的誤解、フランスの社会や価値観とは異なる世界観への興味や親しみなどいろいろな要素があったとのことです。フランスにはないジャンルであったこと、翻訳などフランスっぽい編集がなされたことなどのほか、何よりも悪役にもそれなりの理由を見出す物語構成となっている日本アニメは、個の権利(自由)を優先させるフランスの価値観とは異なる他者への「共感」の世界観を挙げています。
そうして『レクレ・ア・ドゥ』そしてそれに続く『ドロテ・クラブ』で次々と放送される日本アニメのおかげで、フランスの子どもたち、特にエリート層とも移民層とも違うプチブル層の子どもたちに広く浸透したということです。また、このような「共感」の世界観は、これを題材に移民層の子どもたちとのより広いコミュニケーションにも発展できる可能性があったことを指摘しています。
そういえば自分の学生時代、研究室にはフランス人留学生がいましたが、『キャプテン翼』の話で盛り上がったことがあったっけ。(笑)
しかし、1980年代、フランスの価値観とは異なる日本アニメの世界観の故に、エリート層から巻き起こったパッシングの対象になったとのことです。誤解が逆向きになった時、異文化交流のマイナス面が強調されてしまうということでしょうかね。
その後、規制された日本アニメの放送に代わって、有志者は受動的に「アニメを観る」ことから能動的に「マンガを買う」スタイルとなっていたとのことですが、2000年代、フランス人オタクが集うエキスポに目を付けた日本の官・産が「クールジャポン」として進出することになったということでした。
個人的には「クールジャパン」など商売根性見え見えの上から目線のいかがわしさを感じるのですが(それに自分で「クール」と言うとは恥知らずなことよ)、その点は著者も同じでしたね。(笑)
著者の経験からして、ある文化やサブカルチャーの異文化への受容は、そのように「日本」であることを強調・洗練するように上から仕組まれることではなく、逆に偶然や創造的誤解により日常とは違う何かに巻き込まれた結果であり、冒険的なものであったからこそ魅力的であり、異文化の「間」に落ちる過程が面白かったということで、案外、何だかわからない変なものの方が人々の心、特に子どもの心には響いてくるのかもしれませんね。
著者はマンガ『北斗の拳』の翻訳も担当しているとのことで、そのうちフランス人と『北斗の拳』でも盛り上がる日がくると面白いな。