10人のジャーナリストによる共著で、一貫性を持たせているというよりは、それぞれの体験や主張が展開されていて、各自のジャーナリストとしての個性が見える。
ただ、内容的には不満が残る。著者の多くが、外務省による旅券返納命令事件を取り上げ、取材の自由の侵害や政府による都合の悪い情報の統制であると問題視して
...続きを読むいる。また、その契機となった「後藤さん事件」に対するマスコミや世論の自己責任論やジャーナリストへの批判に違和感を表明している。確かに、そういう側面もあるのだろうが、「ジャーナリスト」特有の政府批判、批判をしてもあまり非難を受けるおそれのない主張に聞こえる。それよりも、こういう場面にあって、一般の読者が知りたいのは、リスクを侵して危険地域に入ったジャーナリストが拘束され、人質となって、身代金や日本の政策変更を要求されたときに、政府や国民がどうすべきか、どうしてほしいのかについて、ジャーナリスト側の意見ではないだろうか。人質を盾にした要求には一切応じないという国ならともかく、日本は、人の命は地球よりも重いとして、超法規的措置で犯罪者を釈放するような国だ。人質救出のために、大臣やら副大臣やらが現地入りし、また、政府の対応について一々国会で議論になったり政治問題化して、国全体にとってもっと重要な政策課題が停滞したりするコストまで考えれば、自己責任論が出てきてもおかしくないと思うのだが、そこで日本という国がどうすべきなのかについて、本書では誰も何も言っていない。そういうことに思いが至っていてないのか、それとも、これに関する主張をすることを逃げているのか。
本書については、このような不満があるが、土井敏邦氏が、ジャーナリストは一種の生業で、真実を伝えたいという純粋な気持ちの一方で、スクープを取りたいという色気があるのも事実であると告白していることは高く評価したい。また、玉本英子氏の誠実なジャーナリストとしての姿勢も、「旬の現場」や特ダネを追って危険地域を駆け回る「戦場ジャーナリスト」とは異なり、地道な取組みに共感を覚えた。