歴史というものは、教科書を読んでもよくわからないと思っていた。
おきた出来事はよくわかるのだが、その持つ意味はなかなかわかるものではない。
本書は、明治期から昭和戦前期においての「宮中」を扱っているが、本書を読んで当時の政治風景がよくわかる思いがした。
現在ではすでになくなっている「元老」や
...続きを読む「内大臣」「侍従武官長」などの制度が当時どのような役割を果たしていたのかはなかなか歴史書を読んでもわからないのだが、本書は「宮中」が国家機構のなかで大きな役割を果たしていたことを詳細に解き明かしている。
本書によると「宮中はほかの国家機関と同等か、時と場合によってはこれらを凌ぐほどの政治的影響力を保持していた」というのだ。
「当時の政府や軍部などの国家システムは、それぞれに独立しており、意見が割れた場合、これを一元化する機能にかけていた」という。
これを「天皇」が調整していたとは、現在とは全く違う政治的風景だ。「宮中の存在感は現代の我々が想像する以上に大きかった」。
なるほど「英明なる君主」は、当時は国家システムとして必要だったわけだ。
これを読んで当時の軍部が「宮中」の官僚を「君側の奸」と叫んだ理由がよくわかったように思えた。
時代は「5.15事件」「2.26事件」「満州事変」「日中戦争」と進むわけだが、その経過は、「国務」と「統帥」の狭間で身動きが取れなくなっていく日本の姿だ。
「天皇」と「宮中」がそれぞれ独立している「国家機関」の意見を調整できているうちは良いが、調整が困難になればたちまち制度は軋んでいく。
本書を読むと、この時代の日本が戦争に突き進んでいった理由の一つに、当時の国家システムの不備があったことは間違いがない。
それにしても、この時代の歴史書はずいぶん読んだつもりだが、「宮中」がこれほど重要な役割を持ち、大きな存在であったとは驚いた。これだから歴史は面白い。
本書は、昭和戦前期を知る上で、非常に興味深い本であると高く評価したい。