良書。精神分析学ラカン派入門。入門とあるが厚く、論考やソシュール等の基本的知識は前提とする。ひとにものを勧める趣味はないが、特にひとの親となるひとには勧める。人間の精神はこの世界に属するものではないが、物理学が宇宙の誕生をそのビッグバンから0.1秒以下の出来事を詳細に語りつくすように、人間の精神、そ
...続きを読むのミクロコスモスの誕生から人間に至るまでを分析的に記述する。現在、アメリカを主軸とする精神病における唯物論的理解と真っ向から対立する。そのため明確に科学ではない。一般に、人間は正常という状態にあって病気に侵される風に考えるが、ラカンでは正常な人々を神経症のひとと呼ぶ。神経症のひとにはものを創造することは難しい、などと語られ、芸術分析的側面も存在する。精神病患者に限らず、すべてのひとが病気なので対象はすべてのひとである。精神病に生物学的な論拠を求めず、純粋に精神分析的な解釈を行う。このため、例えばうつ病は薬で治る、というようなスタンスと対立する。そもそもラカンにおいては生物的な男女さえない。人間の精神に、男女の区別は存在しない。この考えを元に展開されるモナリザの芸術分析的記述などは面白い。主体は存在しない。主体は存在欠如である。主体は他者のなかにある、といった基本理念を元に解説され、論考や仏教との類似点も見え隠れする。ラカンは80歳で亡くなるが、70歳代になってなお溢れる泉の如く新たな用語を生み出し論理を展開させ構築させていったという恐るべき才能は驚嘆に値する。後、読んで理解すれば軽度の精神病は治ると思う。