楠木建先生が薦めていた高峰秀子「わたしの渡世日記」と併せて薦めていた著書。確かに面白かった。
だが、高峰秀子の異能は、ただ漠然と人の悲しみや苦しみを捉えるのではなく、その人ごとに”痛み”の種類を見分けることにある。それも瞬時に。種類を見分けるということは原因を解き明かすことであり、それは即ち、
...続きを読む治療法を知ることに繋がる。だから、その人が一番欲しているもの、最もその欠損の跡に嵌まるパーツを、彼女は人に与えるということになる。だから人は喜ぶ。「高峰さんが好き」という。
だが私は、この志げをめぐる長い”物語”を繙くうちに、思った。彼女は、ある意味で”普通の女”だったのかもしれないと。普通の人間が誰しも体内に持っている”悪腫”が、何か後天的な要因をきっかけに、活性化し肥大する。そしてやがては、宿主である人間の肉体を蝕み、遂には生命をも奪ってしまう。その意味では、我々全員が”志げ”になる要因を持っている。ただ違いは、その「何か後天的な要因」の有無、多少だけはないのか。
それが”金”である。