欧州系戦略コンサルティングファームのローランドベルガー日本代表によるドイツの製造業革新プログラム「インダストリー4.0」の解説書。
本書によると、IoTの世界観をベースにした「インダストリー4.0」は以下の3つのキーワードで表現される。
・つながる(複数の企業間に跨るようなバリューチェーン全体を
...続きを読むシステムで連動させることによる品質向上・コストダウン、バーチャル工場で試作を即座に実行し手戻りをなくしものづくりの時間を大幅に短縮)
・代替する(再生可能エネルギーを柔軟に組み込んだ送電グリッド、工場建設をバーチャル上でシミュレーションし投資コストを最小化)
・創造する(ビッグデータ解析による精度の高い需要予測やニーズ発掘)
同様の動きはアメリカでもGE等のプレーヤーが主導する「インダストリアル・インターネット」という形で見られるが、そちらがビッグデータ解析による「創造する」点に力点を置いているのに対して、製造業の強いドイツでは製造プロセスに影響を与える他の2つのキーワードが組み込まれている点に「インダストリー4.0」のポイントがあるとされる。
私見では、ドイツ政府も積極的に関与する「インダストリー4.0」の流れは、90年代~00年代のネットビジネスの台頭の中でアメリカに完全に主導権を握られた欧州の危機感というものが強く表れていると感じる。例えば、個人情報/パーソナルデータの利活用において、欧州司法裁判所は当該データの越境移転に係る「セーフハーバー」協定の無効判決を下したが、こうした形でデータ取り扱いのイニシアティブを何とか取り戻したいという動きは各所で見られている。
それはさておき、本書ではドイツでの具体的な事例も紹介され、「インダストリー4.0」の概略をまず最初に掴むのには適した一冊だと思う。