カルメンといえば魅惑的な女性の代名詞だが、実は原作もオペラも映画も見たことがなく、正しいあらすじを知らなかったのでこちらを読んだ。色々ある訳本の中から新訳を選んだのだが、とても読みやすくて、非常におすすめだった。
話はメリメと思われるフランス人考古学者が、コルドバ辺りのアンダルシアで、たまたまホセ
...続きを読む・ナバーロという怪しい素性の男と知り合うことから始まる。ナバーロに貸を作る形になった作者は、罪を告白して死刑になろうという彼から最後に身の上話を聞くのだ。
話の筋は周知の通り、ロマ人のカルメンに惚れてしまったナバーロが、彼女と一緒にいたいばかりに軍の出世は愚か、罪を犯して、今で言うところの、密輸や強盗といった犯罪組織の仕事に手を染めて堕ちていく、というところ。だが、主眼は、靴下が穴だらけだったり、決して清潔ではないはずの描写のカルメンの、自由人たる魅力、彼女の周りに現れる男性の影に嫉妬を抑えられないナバーロの心情描写が巧みで、読み進める手が止まらなかった。
またメリメはロマ人の言語研究に後年ハマったそうなのだが、フランス語で書かれているであろう原文に、ロマ語のみならず、バスク語やスペイン語、ラテン語の知識も散りばめられている。フランスもバスクとロマという文化を共有している国であるだけに、スペイン内におけるロマ人やバスク人の立ち位置までも描かれていて面白い。