202112/
私は、日本国憲法には三つの顔--言い換えれば三つの性質があると考えています。/
第一に、「法技術的文書としての性質」です。公法(個人と国家の関係を規律する法律)の一番の基礎となる法ではあるけれど、憲法もまた法技術的文書の一つであり、国内法典の一つであるということです。/
第二に、憲
...続きを読む法には諸外国に向けた「外交宣言」としての性質もあります。「サンフランシスコ講和条約」に連なる戦後の国際秩序の中で、「日本もそれに沿った行動をしいます」という宣言としての性質ですね。憲法九条や前文についていえば、法的な意味よりもそちらのほうがむしろ重要なのかもしれません。/
第三に、日本神話に象徴される、日本人が共有する歴史物語の一端としての性質です。日本国憲法の中に読み込まれる歴史物語には、いろいろあります。戦後改革の象徴、閉鎖的な戦前体制からの解放の象徴という物語として読む人もいれば、逆に敗戦によって押しつけられた屈辱の歴史の象徴として読む人もいます。つまり、憲法の内容とは直接関係のない、憲法の背後にある物語という側面ですね。
論者が以上三つのうちのどれを重視するかによって、憲法についての考え方が変わってくるんですね。/
やはり最も重要なのは立憲主義的な価値観、言い換えれば多様な価値、多様な人々の個性を共存させるための枠組みを提供している法典であるというところだと思います。というのも、少数派の弾圧という政治的なオプションは、非常に国家を弱らせてしまう面があるからです。海外の独裁政権の歴史を眺めてみても、一時的には安定しても、長期的な安定にはほど遠いですね。独裁政権は必ず少数民族などの少数者を弾圧しますから、そのことで蓄積された怨念が、早晩爆発してしまう。これはあらゆる独裁政権に共通の構造でしょう。