何だこれは。登場人物もストーリーも粗野で荒々しい限りなのに、途轍もない力で小説世界に引き込まれる。名著の筆頭に挙げられるのも納得の圧倒的作品。
1860年代半ば、夏のロシアの帝都ペテルブルグ。学費滞納のため大学を辞めた貧乏青年ラスコーリニコフは、それでも自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」との
...続きを読む意識を持っていた。その立場なら「新たな世の中の成長」のため、一般人の道徳に反してもいいとの考えから、悪名高い高利貸しの老婆アリョーナ・イワーノヴナを殺害する。しかし、その最中にアリョーナの義妹リザヴェータも入ってきたので、勢いでこの義妹も殺してしまう。この日から彼は、罪の意識、幻覚、自白の衝動などに苦しむこととなる。予審判事のポルフィーリーの執拗な追及をかわしたラスコーリニコフだが、下宿の前で見知らぬ男から「人殺し」と言われ立ちすくむ。しかし「人殺し」という言葉は幻覚で、見知らぬ男はスヴィドリガイロフと名乗る男だった…。
みな熱病にうなされたようによく喋る。それは会話というより、長広舌で思いの丈をぶちまけるといった印象。共感できる人物は見当たらないわけですが、とんでもない勢いで物語は転がっていきます。
主人公ラスコーリニコフと予審判事ポルフィーリーとの犯罪論の応酬も見どころですが、老婆を殺した現場に義妹も居合わせていたところや、妹の縁談を壊そうとする主人公、「人殺し」と指摘される幻覚に魘される場面など、異様なリアリティをもつ描写は、エンタメとしても抜群の破壊力。
1861年に農奴解放令が出され、既存の価値観や思想が否定されたというのが時代背景としてよくある解説ですが、それにしても貴族や聖職者などかつての上位身分の権威を否定し尽くすような、ドストエフスキーの描く庶民の溢れるエネルギーに打たれますね。