ジョン・ロックが、誤謬に陥らずに事象を理解し判断するための処方を書いた小著。
要するに論理的明晰さを維持するために排除しなければならないつまずきの石を指摘していく。その思考モデルの原型は数学である。ロックは思考の訓練のために数学を学ぶことを勧めている。
私たちは、知性(本書の現代ではUndersta
...続きを読むndingとなっている)と呼ばれているものも、理性と呼ばれているものも、同じ脳の諸機能の特性ごく一部を、取り出したものにすぎないということを知っている。特にカント以降は知性・理性・悟性を諸感覚や感情と截然と区分し、それぞれがあたかも1個の実体であるかのように語られた。理性崇拝は西欧の文化を支えてきたが、反面、その信仰は世界の支配原理として機能し、帝国主義的な他文化の制圧へと結びついた。
けれどもロックの時代には、どうやらまだそこまで行っていない。ここではただ単に、真実を見抜くための自己統治のハウツーが語られているだけだ。そのように自己を統治するスタンスが自明の倫理として語られていることに、この時代の状況が現れていて興味深い。
本書に書かれていることは極めて明快で平易であり、特に若い読者には哲学入門の一種として有用かも知れない。若者は「当たり前のことばかり書いてるじゃないか」とぼやくかもしれないが、その場合は、そのような常識がどこから来たのかということを考え直すことを勧めたい。
ロックの『人間知性論』もそういえば未読なので、今度読んでおきたい。