一言でいえば、「東方版」、あるいは「砂漠の国版・シンデレラ物語り」のようなイメージでした。
ヒロインのシーリアはイギリスの身分ある外交官の長女であり、父の命ずるままに前途有望な若い外交官と結婚しました。しかし、夫は結婚後三ヶ月経過しても、彼女には触れようとせず―。
彼女と夫は任地である砂漠の国ア
...続きを読むカディズに向かう途中、賊に襲われ、夫は惨殺。アカディズのシークに助けられたシーリアは彼の国に赴きハーレムの客人として滞在することになります。
シークの人柄にとても惹かれます。男らしく剛胆でいながら、繊細な優しさも持ち合わせている人です。くわえてシーリアもただの貴族のワガママお嬢様ではなく、しっかりと自分の考えを持つ聡明で慎み深い女性です。
そんな彼女もまだ女性としては開き切っていない無垢な蕾であるのですが、それを経験豊富なシークがゆっくりと開かせていく過程も情熱的で素敵でした。
自分のためよりも他人のために尽くすことを大切にする二人は、とてもお似合いなのですが、あまりに国や生きる世界が違い過ぎることが、二人に「永遠の愛」を誓わせることを妨げていました。
最後はそれらの障害も取り除かれ―というよりは、シークが砂漠の民でない外国人を妃に迎えことによる弊害よりも、彼女を永遠に失うことの損失に気づき、シーリアに求婚。
幸せな結末に終わりました。
砂漠の凛々しいシークと外国人女性のラブロマンスはハーレクインでは王道ですが、このお話は一見、よくあるパターンでありながら、他作品とどこか違っているように思えます。
特にラストシーンが良かった。
―三日月は始まりの予感。
シーリアとシークが砂漠のオアシスの辺、二人きりで美しい夜空や月を見上げている情景が眼に浮かぶようでした。
美し印象深い文章表現も随所にちりばめられ、読み応えがありました。
最初に「東方版・シンデレラ」と言いましたが、シーリアは厳密にいうと身分の低いわけでも、一般女性というわけでもありません。由緒正しい家柄の令嬢です。でありながら、シンデレラと表現したのは恐らく、シーリアの辿った数奇で劇的な運命がお伽話を連想させたからかもしれません。